そんな恵美を演じるのは森田望智。この人の演技の迫力もすさまじい。のちにバラエティ番組などにも出演して話題になった黒木香という不世出の人物の内に秘めた気高さと聡明さまでも見事に表現している。ドラマの主軸になっているのは、そんな村西と黒木の生い立ちと彼らがどうやって出会い、そこに何が生まれたか、という一連の過程である。

 世界企業であるNETFLIXが潤沢な予算を用意しているだけあって、一見しただけでまずはその壮大なスケールに圧倒される。一流のスタッフ、一流の役者を揃えて、セットや美術にもこだわり、バブル期の日本のギラギラした空気感を巧みに再現している。

 この作品が口コミで広まっている理由は、思わず人に勧めたくなる魅力があるからだ。ここで描かれているのは、いい作品を作るために命を懸ける村西監督と女優とスタッフたちの純粋な姿勢である。たとえ作っているものがアダルトビデオだったとしても、作り手の熱は確実に受け手に伝わるものだ。

 誤解を恐れずに言えば、創作者たちの無垢な創作愛を主題にしているという意味では、この作品は昨年大ヒットした映画『カメラを止めるな!』にも通じるものがあると思う。汗をかいて物作りをする人間の純粋な美しさは、それだけで人の心を動かすものなのだ。

 アダルトビデオ業界を舞台にしているし、際どい撮影シーンももちろん出てくるのだが、この作品の主題はそこではない。だからこそ、それが引っかかって食わず嫌いをするのはもったいないと思う。この作品を熱心に勧めたくなってしまうのはそういう理由もある。

 このドラマの中の村西は、先輩の営業マンに教えを受けて覚醒するまでは、営業成績も悪くうだつの上がらない平凡なセールスマンだった。恵美もイタリア美術が好きなおとなしい女子大生だった。そんな2人はAV業界で運命的な出会いを果たし、自らの欲望を解放して生まれ変わった。

「己の欲望を解放せよ!」

 この作品は見る人にそう訴えかけてくる。何もかもギラギラでゴージャスなバブル期の日本を舞台にした汗と欲望の物語は、世界中の人々に衝撃を与えうる傑作である。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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