それはマウナケアという山はネイティブ・ハワイアンの聖地だから。日本人の感覚で言うと、伊勢神宮とか富士山の山頂に国際組織が巨大ビルと建てるようなものなんだと思います。ただ、彼らの怒りはこの一つの望遠鏡に対するものじゃなく、長い歴史の積み重ねなんです。

 ハワイという土地にはもともとネイティブ・ハワイアンが住んでいて、そこにアメリカが進出し、我々のような外国人がどんどん入っていったわけです。つまり、ハワイ諸島全体の土地を外国人が奪っていった。ホテルの土地なんかも軍隊が奪ったものだったりするし、例えばオアフ島のワイキキは、昔は水田や農地だったんだけど、税金をバカみたいに上げて農民を追い出したりしたわけです。そのときに反対運動した人が強制的に刑務所に入れられた歴史もあって、だからハワイアンにしてみれば、マウナケアという自分たちの聖地を侵すことだけは許さないという最後の砦なんですよね。だから是が非でも守りたいわけです。それに「13基まで」という取り決めもあり、それ以上は許さない、またデカいものを作るなんてとんでもない、となっているんですよね。

 先住民を守り伝統を残していくためにハワイには、その子孫のための学校もあるんですよ。何親等までという決まりがあって、純粋な日本人とかは入れないようになっているらしい。だから、今回のこともハワイアンの土地を残そうという意味で多くの人が反対し、最近ではハワイに関係する芸能人も抗議活動に参加しています。

 そもそも山頂付近に13基の望遠鏡ができた経緯はというと、1960年のチリ地震でハワイ州で2番目に大きな街であるハワイ島・ヒロに津波が来て60人以上の死者・行方不明者が出たのがきっかけだったらしいんです。(ちなみにその津波は日本にも来て、139人が犠牲になりました。いまもヒロには津波博物館があります)

 それによって観光や経済が崩壊したハワイに事業を誘致しようと、ハワイの商工会議所のアキヤマ・ミツオさんという日系人の方が日本やアメリカの大学とかに手紙を出して、マウナケア山頂での天体観測を提案したわけです。それから、ハワイ大学、イギリス、NASAなど各国が望遠鏡を作り、日本の「すばる望遠鏡」も1999年に試験観察が始まりました。

次のページ