「ピッチャーを育てていかないといけない」というのは、宇津木監督が2016年12月に2度目のソフト女子代表監督に就任してから、ずっと言い続けていること。「上野みたいなピッチャーがいたら、いくらアメリカが強くても簡単には打たれない」と絶大な信頼を寄せる上野は30代後半になった今も、多彩な球種と最高球速116~117キロのスピードを武器に日本の大エースに君臨している。

 しかしながら、アメリカなどライバル国の研究も進み、彼女1人だけでは五輪を戦い抜けないのも確かだろう。実際、2018年世界選手権決勝・アメリカ戦(千葉)でも、日本は上野1人が10回を完投したが、アメリカは北京で上野と投げ合ったモニカ・アボット(トヨタ自動車)を含む5人のピッチャーが継投を重ね、最後の最後で勝ち切って王者に輝いた。宿敵・アメリカには最速120キロと言われるアボットに加え、同程度のスピードボールを投げられるキャット・オスターマンも現役復帰し、ピッチャーの人材がとにかく豊富だ。そこは日本との大きな差。こうした現状と反省を踏まえて、宇津木監督も上野以外のピッチャーの必要性を改めて痛感したという。

 そういう意味で、大エースが負傷離脱した今年は他の選手に経験を積ませるいい機会になったとも言える。指揮官が最も大きな手ごたえをつかんだのが「ポスト上野一番手」と目される藤田倭(太陽誘電)だ。6月の日米対抗第3戦で藤田は8回を完投し、強打を誇るアメリカ打線を零封。1−0勝利の原動力になった。

「藤田はもともと我が道を行くタイプ。その性格を間近で見て『チームのために何ができるか考えた方がいい』『ソフトボールのためにもっとやれることがあるんじゃないか』と何度も話してきました。2012年から代表に呼んで、長いスパンで見てきたけど、最初はアメリカに5~6点は取られていたのに、今は2点以内で勝負できるようになった。6~7年かけて彼女を引っ張ってきて本当によかったなと思います」と宇津木監督もしみじみ語ったが、上野が万全でない今こそ、一気にエースの座に躍り出る必要がある。

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期待できるのは藤田くらいか