新卒の求人倍率は7年連続で上昇。好景気で人手不足になる時期には、前倒しの採用が活発化する。だが、今回の協議会がテーマとするのは採用方法や日程の見直しだけではない。国際社会で活躍する人材を育成する大学教育から、経団連・中西会長がいみじくも「終身雇用はもう守れない」と語ったような企業の雇用体系の変化まで見据えている。

「大学と産業界がこうした深い論議をするのは初めて。Society5・0という新しいデジタル社会を前にして、もはや従来の日本型では乗り切れません。ただし、採用が複線的で多様な形態になるにしても、秩序をもって移行すべき、と明記してあるわけです」(山口さん)

「中間とりまとめ」の文章で目立つのは、前述したジョブ型なのだが「この採用では、企業は採りたい人材像を明確にする必要があります。大学も人材育成の目標をより明確にしなければならない。そこに企業と大学が一緒になって教育を考える要素があるわけです」と山口さん。

■すでに始まっている「複線化・多様化」

 しかしながら、大学生のおよそ半数を占める文系学生はジョブ型採用の対象にはならないと見られている。となれば従来の一括採用しかないのだが、「中間とりまとめ」では、「外国人留学生や日本人海外留学経験者を積極的に採用する方向」としており、やはり文系に関する採用も、グローバル化を前提として、複線化・多様化しそうな気配を見せているのだ。

 リクルートキャリア就職みらい研究所所長の増本全さんは、「大学側の見解では卒業後の採用を通年化としているようですが、採用時期は多様化しています」という。そこに卒業以前または卒業後のジョブ型採用が追加される可能性があるわけだ。

「3月に会社説明会、6月から選考解禁という新卒一括採用でも3月段階で8・7%、6月1日段階で約7割が内々定を得ています。経団連の縛りが形骸化したから前倒しになったというよりも、中途採用も含めて人材が採りにくいため、手法が多様化してきたとも言えます。ただし、いくら早期に学生を確保しても、6月に大手が内定を出せば辞退されることが多いのが実態です」(増本さん)

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一括採用にも合理的な役割がある