いまや精神疾患はがんや脳卒中、急性心筋梗塞(こうそく)、糖尿病とともに全国規模で対策を計画・推進する5疾病に数えられ、患者数もそのなかで最も多い約392万人(厚生労働省による平成26年患者調査)と身近なものとなっています。

 精神疾患は、多元的で事例性も高いことが多く、評価や治療方針を検討するうえでは、本人の希望を含めたさまざまな要素を考慮する必要があります。ここで「多元的」であるということは、症状を結果としてみたときに、症状の原因になったり影響を与えたりするものが多く存在するということです。

 たとえば、遺伝など本人の個性や併存疾患、生育歴、生活環境、経済状況、交友関係なども含まれます。これらによって「事例性」、すなわちケースごとの多様性が大きく、診断が同じ疾患であっても慎重な評価考察を行いケースによって柔軟に対応することが必要になります。

 利用する人にとっては「いろんな話を聞いて考えてくれるので安心します」と言ってくださったり逆だったりと、善しあしの評価が分かれてしまうように思います。もしかすると、この柔軟性が医師の勝手な裁量と捉えられてしまい、ときに不安と感じられることもあるかもしれません。

 しかし実際には、症状が重く切迫しているなど、よほどのことがない限り、ご本人の希望に沿う形で治療を含めた対応が検討されると思います(これら精神科外来受診については第5回でも取り上げていますのでご参照ください)。

 大切なことは医療が必要になったとき、なるべく早い段階で医療につながることだと思います。もし、受診して「発症には至っていない」と判断された場合でも、何らかの介入をおこなうことで発症を未然に防ぐことができればよりよいことです。

 当コラムを発信することが発症予防に貢献するとは言えませんが、医療現場だけでなく、社会で生活されている幅広い読者の皆さまに読んでいただくことで、受診を考えたときの抵抗感や精神疾患・精神医療に対するイメージを少しでも和らげる一助になればと願っています。

 ここで、かねて編集部にお願いしていた、読者の皆さまからの質問を受けるコーナーができ上がったとのことで、そのお知らせをさせていただきます。

 第2回のあとだったでしょうか。読者の方から「相談したいのですが、どうしたらよいでしょうか」と質問がありました。その後もポツポツと同じような質問をいただくようになったのですが、そんなに早く相談を受けるとは想定しておらず……。

 どうしたものかと編集部に泣きついたところ、「よいと思います」と即答で驚くほど素早く対応してくださいました。気を揉んでいた日々はいったいなんだったのか。さすがです。そして、でき上がった応募コーナーがこちらになりますので、もしご相談がありましたらご応募ください。

 実際に取り上げさせていただく相談については、既に公開された回との兼ね合いや当コラムの趣旨などを考慮する必要がありますので、編集部に相談内容をご確認いただいて意見をうかがいながら決めていきたいと思います。

 できるだけたくさんのご相談にお答えしたいと考えていますが、注意書きにもあるように全てのご相談にお答えすることはかないません。上記のような都合から、ご応募順というわけにもいかず、あらかめご了承いただけますと幸いです。

 皆さまと一緒にご応募いただいた相談に取り組むことで、精神的な不調が生じても大切な人たちと関係を保ちながらより安心して生活し、さまざまな活動を維持していける社会・支援を実現できるよう、すこしでも歩みを進めていければこのうえなくうれしく思います。

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大石賢吾

大石賢吾

大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo

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