新たな「給付型奨学金制度」によって低所得者層の進学はフォローされた。しかし、年収500万円以上の中流世帯でも経済的に進学が容易でない事実は変わらない。そこで、今後は中流世帯を対象とした大学それぞれの取り組みがポイントになると久米さんは予測している。

「東京など都市圏の大学では入学者のローカル化にともない地方の優秀な学生を求めています。そのため地方出身者を対象とした支援が盛んですね」早稲田大学の奨学金制度「めざせ!都の西北奨学金」が一例だ。成績優秀な首都圏以外の出身者を対象に、父母の控除前の収入が800万円未満であることなどを条件として授業料の半期分を減免している。

 入試前に申請し、事前に授業料減免の可否がわかる「予約型」の支援制度の存在も認識しておきたい。大学独自の奨学金はこうした「予約型」が主流になってきている。

 特待生制度などの奨学金も注目すべきだろう。聖心女子大学では、一般入試の成績上位10人程度に対し、授業料の全額70万円を4年間給付。上位50 人程度には半額を給付している。

 各大学独自の奨学金制度に意識を向けると同時に、久米さんは受験生や保護者はより広くアンテナを張る必要があると強調する。

「入学後の申請を前提とする民間企業や団体の奨学金制度も広く調べておくべきでしょう。世帯の収入基準は緩い傾向にあり、4人家族で年収700万から800万円以下を想定している制度が多い点が特徴です」

 企業の場合、卒業後の対象企業への採用応募や入社を条件とするケースが多い。例えば、トヨタ自動車グループの「トヨタ女性技術者育成基金」では、世帯収入に関係なく工学系専攻の女子学生に対し、年間60万円を実質無利息で貸与する。卒業後に製造業に入社すれば元金の半額、基金参加企業に入社すれば全額の返済が免除される。少子化にともなう人材不足を背景に、こうした就職を前提とする企業の奨学金制度は増加していくことが見込まれる。

 センサー機器の製造を手がけるキーエンスが母体となるキーエンス財団のように給付型奨学金を支給する団体も増えてきた。奨学金応募の際の所得制限や同社への採用応募の必要はない。給付期間は4年間で、19年4月入学者は125人が対象となった。こうした民間の給付型奨学金の存在は決して認知度が高くない。だからこそ「狙い目」だと久米さんは話す。

「受験生の保護者の方々は、まずは情報収集が重要です。JASSOや大学のほか、自治体や民間の奨学金制度を広く調べ、併願可能なものはどんどん応募されることをおすすめします」(文・吉田大悟)

※アエラムック「就職力で選ぶ大学2020」から