2014年から全般検査が行われ、1年以上を経た2016年春頃には見通しが立ってきたように思えたのだが、その秋の試運転を前に輪軸の不具合が起こるなど、時間と労力がかかる状況が相次いだ。それでも不具合が生じた部分の部品を新製して対処する。

 何度問題が生じても、そのすべてを乗り越えてきたところに「SLやまぐち号」に対するJR西日本の大きな期待と愛情を感じることができる。2017年11月25日、D51-200が「SLやまぐち号」の先頭に立って運転を開始した。

 2019年8月1日。40周年を迎える「SLやまぐち号」はD51-200が先頭に立ってけん引した。前述のとおり「貴婦人」と呼ばれたC57-1の姿と比較すると、スタイルという点では全く異なる印象の機関車である。
 
 しかし、D51は一形式の機関車として最も多い1115両が製造された形式であり、SLの中のSLといってもよい形式。それに、山口線はもともとD51形が走行していた路線で、C57形よりも路線に適した機関車なのである。そういったことからも、「SLやまぐち号」けん引の任を受けるに全く不足のない機関車なのである。

 今年10月からは、再び貴婦人ことC57-1がけん引する姿も見られるようになる予定だ。2機体制が整えば、より彩り豊かなSLの旅を楽しめるようになり、一層のリピーターが増えるかもしれない。

 前述した2018年の鉄道友の会ブルーリボン賞の受賞理由からもわかるように、SL運転は一時的な客寄せではなく、永続して運転することで、大きな産業遺産となる。

 現在、SLはJR東日本、JR西日本、JR九州のJR3社のほか、東武鉄道、真岡鐵道、秩父鉄道、大井川鐵道で運転を行っている。機関車のメンテナンスはもちろんのこと、客車のことも真剣に考えていかなければ、近い将来終息を迎えてしまうことが容易に想像できる。

 SLがこれからも観光資源として、動く産業遺産としての価値を保つために、35系客車に続いて他社でも客車の新製を行い「永続的運転の方向性」を示してくれることを切に願う。(文/松原一己)

○プロフィール
松原一己(まつばら・かずみ)大阪府枚方市出身。デザイン表札やステッカー制作を手がける日本海ファクトリー代表。趣味で行っていたトレインマークのトレースが高じて、ウェブサイト「愛称別トレインマーク事典」を運営する。著書に『特急マーク図鑑』(天夢人)、『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社・共著)。