■トップ、レディース、ユース……すべてがファミリー

「普段は社員としてスポンサー営業の仕事をしています。おかげさまでスタジアムの広告スペースは全部埋まっています」

 FC今治レディースキャプテン、ゴールキーパーとしてプレーする東日向子。選手と社員の二刀流で、スポンサーシップグループ一員として業務を行いながら、ボールを蹴っている。現在、四国女子リーグ所属のチームで、なでしこリーグ昇格を目指している。

「ユースチームもできて、レディースと共に試合前イベントなどでお手伝いもしている。普段から地元の人と接するので、チームに対する興味……いや、愛情というか、情熱が強くなっているのを感じます。

 選手としては、なでしこリーグ昇格が目標。道のりは長いですが、着実に進んでいければと思っています。組織としてFC今治が少しずつ大きくなっているのを感じます」

  環境などのハード面のみでなく、選手補強などソフト部分の強化も着々と進んでいる。駒野友一、橋本英郎といった元日本代表選手を招聘。その他にもJリーグでのプレー経験者など、適材適所の選手補強も行っている。

「やはりイチ選手としてトップ選手のプレーを見て勉強になることが多い。駒野さんや橋本さんからは、私たちレディース選手も大きな影響を受けています」と東は語る。岡田オーナーや小野監督の理論、戦術は浸透している。そして実績ある選手のプレーがクラブ全体に好影響を及ぼしている。

 愛媛県は『野球王国』と呼ばれる。その中でも人口約16万人、と大きな町ではない今治からJリーグを目指す。同県にJ2・愛媛FC、隣県の香川県にJ3・カマタマーレ讃岐、少し足を伸ばせば徳島県にJ2・徳島ヴォルティスと周囲にはJの舞台で先行して戦うチームがいくつもある中で、なぜ今治だったのか。

 今治取材の出発点で持った疑問の答えは、すぐには出ない。しかし初めて訪れたこの地では、想像以上の熱い雰囲気、盛り上がりが感じられた。間違いなく今治に欠かせないものになりつつある。 そして周囲の支えだけでなくクラブ自体にも、箱(スタジアム)、クラブ運営、そして現場(プレイヤー)という3つの強固な柱が出来上がりつつある。

 今治は、かつての「村上水軍」という瀬戸内海を拠点とした水軍(海賊衆)が有名。「時を超え、この地が戦いの場所に選ばれたというのは必然」、というのは、こじつけが過ぎるだろうか。FC今治が表舞台に出現するのは、予想以上に早いかもしれない。新時代、令和の海賊たちは、水面下で静かに熱く、その時を伺っている。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍やホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を不定期に更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。