冗談めかしてもいるが、吉本から「家出」した者への非難もこめられた言葉だ。とはいえこれは、彼のやんちゃな情の濃さのあらわれでもある。サブローが復帰する際には後押しをしたし、シローの復帰嘆願運動も行なって、こんな発言をした。

「みんなの力、みんなが戻してやりたいというムード、思いがあったら、それを吉本が耳傾けんことはできないでしょう。(略)人が一人増えるのやから、ライバルになるのやからね。それでもみんなそんなことをかまわずに、なかなかフェアやと思いますよ。いつもケチやのなんやの、みんなで言うてるけど、こういうところの吉本っていいな、と思いますわ」

 今回の騒動で、松本人志や岡本昭彦社長の言動に漂っていたファミリー好きの吉本イズムというものがここにも見てとれる。ただし、サブロー・シローにとっては複雑な気分だっただろう。ふたりが独立した時期は、紳助がキャスターを始めた頃でもあり、こんなふうに茶化していたからだ。

サブロー「お笑いが、マジな顔してニュース読んでね。クウェートの情勢はどうたらこうたらと。その中にオチがあればいいけど、オチがないまま『続いて空模様です』。何をいうとんねんと」シロー「紳助がフセイン大統領の話をして『いかんですよね』いうてね。おまえがフセインみたいなことしとったやないか!?」

 だが、復帰後「紳助の人間マンダラ」で構成作家をさせてもらうようになったシローは、こう語ることになる。

「紳助さんは昔から努力家ですけど、素人を巻き込んで番組で遊ぶのがごっつううまい人やね。(略)ネクラな人間でも面白い番組を見つけ、こう遊んだらええやないかと引き出してくれる温かみがある。番組の伝道師みたいな人やね」

 とまあ、紳助及び吉本イズムの軍門に完全に降ってしまったのだった。

■吉本の多様性は変わらない

 このような経緯を思い出すにつけ、今回の騒動も結局、おさまるところにおさまるのではという気がしてくる。吉本という会社も、芸人たちもそれほど変わったとは思えないからだ。そして、変わればいいというものでもない。ファミリー志向とブラック要素を併せ持つ企業としてのあいまいさや大ざっぱさ、社内格差といったものが、吉本の笑いや芸人の多様なあり方にもつながってきたのだ。

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吉本から飛び出す芸人がいてほしい