しかし、海斗さんや岡本社長のように問題をとらえてしまう人は少なくありません。そもそも、それが自分を防衛するという意味では人間の自然な反応だとも思います。

 吉本興業の所属タレントさん達も、社長の発言を批判する一方で、吉本に育ててもらったとも言っています。そのようにある種矛盾した気持ちが同居しているのはタレントさん達も苦しいと思います。

 別れたいと言い出した桃花さんも同じです。いろいろな気持ちがあったはずです。しかし、人は矛盾する気持ちがあるとき、一方の気持ちを抑え込まれると、その反対側の気持ちが大きくなりがちです。いろんな気持ちがあったのに、最後は「誰が稼いでいると思っているんだ」と言われて我慢させられて「一件落着」になってしまうたびに、桃花さんの反発は大きくなっていったわけです。

 吉本興業の一連の騒動は、成り行き次第では一部の芸人さん達が契約解除になって終わってしまったかもしれませんが、何人かが勇気を持って行動したおかげで事態は違う方向に動きだしました。

 夫婦の場合は、長年かけて出来てしまった力関係が、2人が本音で関われる親密な関係の邪魔をします。親密さと権力構造は相反するものだからです。2人の関係のどの程度が権力関係で、どの程度が愛情関係なのか、それぞれの認識を一度話してみるのもよいと思います。自分と相手の認識が違ったら、夫婦のきずなを深めるために話し合うチャンスととらえたらうまくいくと思います。(文/西澤寿樹)

※事例は、事実をもとに再構成しています

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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