「さすがにセリフや歌は競技では行えないですが、魅せ方については今後に活きてくると思います」

 高橋はこの公演で受けた刺激を、現役選手として競技会でも活かしていくだろう。プログラムに掲載された宮本氏との対談で、高橋は「試合も、ショーも、すべてやる。そこに今回の現役復帰の意味がある」と語っている。

「前は、試合は試合、ショーはショー、と思っていましたが、今は自分を表現する場として、どちらも同じだと思っています」

 本公演後には、ショートプログラムの振り付けを行うという高橋。今までにない形でアイスショーへの出演と現役選手としての活動を両立しようとするのは、はっきりとした目標があるからだ。

「今回のように競技以外の場所でスケーターが活躍できる場所、表現者として表現できる場所、そしてスケートを職業にできる環境を目指していきたいですね」

 フィギュアスケートの可能性を広げようとしている高橋のスケーティングは伸びやかで、光源氏を表現するのにふさわしい美しさがあった。表現する場に向けて厳しく自分と向き合う静かさと、本番で自らを解き放つ華やかさ。そのコントラストが、高橋大輔の魅力なのかもしれない。(文・沢田聡子)

●プロフィール
沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」