三塁走者の斉藤歩は公式戦初出場の1年生だったが、試合が停止しているような状況の中でも、冷静に状況を分析していた。ボールを持っている板野が背を向けており、やや遅れてマウンドに行こうとしていた捕手もホームベース前でマスクを脱いで手に持っているのを見て取ると、「これならイケる!」と果敢にスタートを切った。

 武相ナインがあっけにとられている間に、“忍者走塁”の斉藤はスライディングしながらホームイン。球審も「セーフ!」をコールした。タイムを取っていると思い込んでいた武相ナインは猛抗議したが、インプレーでタイムは認められず、サヨナラ本盗という思いがけない形でゲームセットに……。

 インフィールドフライは、宣告された時点で走者の進塁義務がなくなるため、ボールデッドと勘違いされがちだが、そんな状況下でも、走者には進塁する「権利」があるということを知っていた1年生が劇的なサヨナラ勝ちを呼び込んだ。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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