審判のジェスチャーを勘違いして、守備側のナインが「優勝決定!」と大喜びする珍事が起きたのが、昨年の奈良大会決勝、天理vs奈良大付だ。

 序盤から激しい点の取り合いとなった打撃戦。5対9とリードされた天理は9回表に4番・北野樹の本塁打などで2点を返し、なおも2死満塁のチャンスに1番・宮崎秀太が中前に2点タイムリーを放つ。

 だが、センター・植垣裕が冷静な判断でバックホームをすることなく、三塁を狙った一塁走者をストライク返球で刺したことから、同点の走者の生還と三塁タッチアウトのどちらが早いか微妙なタイミングとなった。

 直後、球審が人差し指を立てるジェスチャーで「この1点(同点)を認める」とジャッジしたところ、これを「1点止まり(9対8で勝利)」と早とちりした奈良大付ナインがマウンド付近で歓喜の輪をつくった。この瞬間、試合を中継していた地元テレビ局の画面にも「優勝 奈良大附属高等学校 初優勝」とフライングのテロップが躍った。

 直後、審判団が協議し、「二塁走者の生還のほうが早い」と再確認したあと、球審が9対9の同点になったことを場内説明すると、今度は一塁側の天理スタンドから大歓声が上がった。歓喜の絶頂から梯子を外された形の奈良大付ナインがガッカリしたのは言うまでもない。

 だが、気持ちを切り替えて、9対9の延長11回2死満塁のチャンスに、好守で味方のピンチを救った植垣が右中間を破り、今度は本当のゲームセット(優勝)となった。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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