583系は昼行特急として運行されたので、1等座席車(1969年よりグリーン車)の連結が必要とされた。当初は昼間は回転式リクライニングシートの1等座席車で、夜間は2段式寝台の1等寝台車へと転換する構想だった。

 この転換機能は「前後にスライドする回転式リクライニングシートを装備し、背もたれをスライドさせてフラットにし、フットレストと連結し、下段寝台にする。側壁から仕切りを出して寝台間を区切る。上段寝台は折り畳み式で、外を見るための小窓が付く」ものだったという。

 単純に考えて、1900mmの寝台区画でこのような構造にした場合、座席を1等座席車標準の1160mmで並べることはできないし、座席間隔1900mmでは広すぎて、向かい合わせにもできない。この問題に対しては、定員減はやむを得ないとし「向かい合わせにはしない」「座席の後ろに荷物を収納する」という予定だったようだ。しかし、モックアップを作ると時間切れになる懸念があり、1等寝台車と1等座席車の転換機構は断念された。実現したなら、世界に類を見ない寝台/座席車となったことは疑いなく、残念なことである。

 結局、583系の1等座席車問題は昼行特急と同じ回転式リクライニングシートを1160mm間隔で設置し、夜間もそのまま1等座席車として使うことで解決された。

 この1等座席車は、料金面では2等寝台と大差なかったが(600キロまで2000円、1000キロまで2600円。中・上段寝台はどの距離でも4000円)、夜行運転時でも「寝入っては困る」乗客を中心に愛好されたようである。

 筆者は座席交換後のグリーン車時代に座ったことがある。交換された座席は国鉄時代のものとは異なり、肘掛け内に大型テーブルが収納されているのは大きな改善点だと感じた。

 だが、リクライニングの角度は小さくなり、背もたれを倒しても座面が平たいままで、お尻が前に滑るような感じがし、座り心地自体は国鉄時代の座席が上だと思った。車体断面が他の寝台車と同じため、天井が非常に高くて落ち着かなかった。

■A寝台車登場

 583系は昼行特急からは新幹線の開業で、寝台特急からは2段式B寝台車の普及で運用が減少し、一部は近郊型電車715系に改造された。

 残された583系の一部が、大阪~新潟駅間の夜行急行「きたぐに」に投入されることになった。「きたぐに」はA寝台車(1969年に1等寝台を改称)の需要が多かったのだが、前述した理由で583系にはA寝台車は存在しなかった。このため、3段寝台を2段寝台へと改造し、1ボックスをA寝台客向けのフリースペースとなる喫煙席へと変更した。

 寝台サイズは下段が幅102cm、長さ190cm、高さ120cm、上段が幅90cm、長さ190cm、高さ100cmであり、B寝台(1969年に2等寝台を改称)よりも居住性が改善された。

 筆者は下段寝台に乗車したことがあるが、高さの改善を感じつつも、昼行列車では「普通車」となるため、そのさいに座席上にセットされるパイプ棚が寝台の真上にあるのは違和感があった(客車の開放型A寝台にはパイプ棚はない)。

 上段寝台については、高さは「パンタ下」とほぼ同じだけど、寝台幅20cmの違いが見て取れて、A寝台のゆとりを感じた。

「583系寝台電車」の座席・寝台解説、いかがだろうか。この記事が座席や寝台をより楽しむための一助になれば幸いである。

○安藤昌季(あんどう・まさき)/1973年、東京都生まれ。乗り物ライター兼編集プロダクション「スタジオサウスサンド」代表。『教えてあげる諸葛孔明』や『旅と鉄道』『鉄道ぴあ』など、歴史や乗り物記事の執筆・企画・イベントを多数手がける。