大船渡高の佐々木朗希 (c)朝日新聞社
大船渡高の佐々木朗希 (c)朝日新聞社

 多くの人がその将来を心配したことは間違いないだろう。

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 7月21日、この夏最大の注目選手である佐々木朗希(大船渡)はシード校の盛岡四を相手に延長12回を投げ切り21奪三振、2失点完投。打っても決勝のツーランホームランという離れ業をやってのけたが、その球数は194球にまで達したのだ。しかし翌日の久慈戦、マウンドはおろか先発メンバーにも佐々木の名前はなかった。打者としても4番を任せられている佐々木をスタメンから外すということは大きな戦力ダウンに違いないが、チームを指導する国保陽平監督は佐々木の将来を守ることを選択したのだ。試合は4点をリードしていた大船渡が終盤に追いつかれ、2試合連続の延長に突入。11回表に大船渡が2点を勝ち越して6対4で勝利。佐々木は最後までブルペンにすら入ることはなかった。

 昨年夏に甲子園を沸かせた吉田輝星(金足農→日本ハム)が秋田大会の初戦から甲子園の準決勝までの10試合を一人で投げ抜き(決勝の大阪桐蔭戦は先発して5回降板)、同じ公立高校の超高校級投手ということで佐々木にも酷使の不安がつきまとうが、これまでの国保監督の起用法を見ていると、佐々木の将来に最大限気を使いながらもチームとして勝つという方針がよく分かる。その象徴的だったのが春の岩手県大会だ。夏のシード権のかかる大事な大会でありながら、1回戦の釜石戦で延長にもつれながら佐々木を起用しなかったのだ。その前の地区予選でも最後まで起用するか迷ったとコメントしており、佐々木も球速を抑えたピッチングに終始した。甲子園出場を義務付けられた強豪校ではないとはいえ、佐々木をここまで温存して戦うことは勇気がいることである。21日に194球を投げたのは投げ過ぎという声もあるが、負担の少ないフォームで上手く強弱をつけながら投げる佐々木の姿からは、悲壮なものは最後まで漂ってこなかった。

 甲子園の時期になると投手の登板過多が問題視されることが多く、今年の4月からは「投手の障害予防に関する有識者会議」が実施されることになったが、現場レベルでも改善が進んでいないわけでは決してない。春夏6度の甲子園出場を果たし、関東でも屈指の強豪校である健大高崎(群馬)は最も進んでいる学校の一つだ。全ての選手の試合結果をデータで事細かく管理し、投手については試合だけでなく練習での投球数も管理している。実戦でも毎年複数の投手を起用し、継投で勝ち抜くスタイルが徹底されている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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減りつつある投手の酷使