ところが、味方打線も寺田昭二を打ちあぐみ、初回からゼロ行進。「ノーヒットノーランは9回に知って狙っていました。早く点を取ってくれと思っていたんですけど……」というエースの思いとは裏腹に、試合は延長戦へ。

 そして、0対0で迎えた14回裏、出水中央は1死一、三塁のサヨナラチャンスに林自らが打席に。「自分のバットで決めてやる」の執念が乗り移ったかのように痛烈な打球を放つが、不運にもショートへのライナーとなった。一塁走者が飛び出しており、併殺でスリーアウトチェンジと思われたが、この日先発して11回途中に肘の痛みで降板後、ショートに回っていた寺田は、肘痛が影響してか、痛恨の一塁悪送球。ボールがグラウンドを転々とする間に三塁走者がサヨナラのホームを踏み、この瞬間、延長14回ノーヒットノーランが達成された。

 甲子園では、57年に当時早稲田実の2年生だった王貞治が延長11回ノーヒットノーランを達成しているが、それを上回る快挙。180球を投げ切った林は「やっているときは疲れを全然感じなかったけど、今はすごくきつい」と疲れきった様子だった。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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