出水中央の林真司投手 (C)朝日新聞社
出水中央の林真司投手 (C)朝日新聞社

 今年も甲子園出場をかけた夏の熱い戦いが全国で行われているが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、全国高校野球選手権大会の地方予選で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「ノーヒットノーラン編」だ。

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 外野ゴロアウトが功を奏して、宮城県大会史上初の完全試合を達成したのが、泉の2年生右腕で身長169センチの井上誠だ。

 1992年の県大会1回戦・松島戦、球威はあっても四死球で自滅しやすいタイプだという井上は「初球ストライクを取れ」という監督の指示を守り、得意のスローカーブから入り、速球と鋭いカーブを内外角に散らす巧みな投球で1人の走者も許さない。「5回くらいから、カーブ、スライダーが面白いように指にかかるので、ひょっとすると、と思った」そうだが、スタンドも記録を意識してざわつきはじめた。大会本部のある宮城球場でも、快記録達成に備えて、県高野連関係者が慌ただしく過去の記録をチェックしだした。

 だが、自らのタイムリー二塁打も含めて6対0とリードした7回、松島の先頭打者・小幡達矢の打球が右前に弾む。ついに記録が途切れたか? 応援席からも悲鳴が上がった。

 ところが、ここで、まさに野球の神様がもたらしたような“奇跡”が起きる。ライト・赤門真人が素早く打球を処理すると、一塁に矢のような好返球。間一髪ライトゴロに仕留めたのだ。赤門はもうひとつ、右直も好捕しており、2度にわたって同学年の井上をアシストした。

 バックの堅守にも助けられて、最後の打者も遊ゴロに仕留め、ゲームセット。奪三振16、内野ゴロ9、外野ライナー1、外野ゴロ1という内訳で、見事パーフェクトを達成。「先輩のためにもと頑張ってきて、自分がこんな記録を作るとは……」と信じられないような様子ながら、「右翼手がヒットかと思った当たりを一塁でアウトにしてくれて助かりました」と感謝しきりだった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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オール三振で完全試合達成!