トリコチロマニアも毛を抜くのが気持ちいいのです。症状がひどかったときの私は毛が抜けることに快楽を感じていました。

 皮膚病の原因となる自傷行為はやっかいなものです。癖になってしまったものを直すには時間がかかります。

 今回は「皮膚に悪い癖を直すため」に私が取り組んだ三つの対策について紹介します。トリコチロマニアの方は少ないかもしれませんが、アトピー性皮膚炎のお子さんをもつ保護者の方々にお役に立てば幸いです。

1. 罪悪感が残る言葉を使わない

 トリコチロマニアがひどいとき、「髪の毛を抜いちゃだめ」と家族を含めいろんな方に言われましたが、その注意が役に立ったことはありません。同じように、アトピーのお子さんに「かいちゃだめ」と言うのは効果がないと思っています。かいちゃいけないのは自分でよく理解している場合のほうが多いのです。私も髪の毛を抜いちゃいけないのは自分でよくわかってます。だめなことをしているのは十分理解しているところに「やっちゃだめ」と注意するのは、実際にやってしまった後の罪悪感を強めるだけです。罪悪感が強くなっただけでは、癖は直りませんし、罪悪感が強くなればストレスはより強くなります。本人がその癖に気がついていないのならば、「いま触ってたよ」と声をかけるだけで十分です。

2. ほかの癖に置き換える

 髪の毛を抜きたいと思ったとき、それ以上の気持ちよさを感じる癖を身につければ悪い癖は直ります。例えば私の場合、髪の毛を抜く癖をペン回しに置き換えました。髪の毛を抜きはじめたら、気がついた瞬間からペン回しの練習をします。ペンを落として周りに迷惑をかけたりもするのですが、ペン回しに熱中すると髪の毛を抜きたい欲求が収まります。おかげでペン回しは数パターンできます。(医者として全然役に立たない特技です!)

 ペン回しはさすがにちょっとという方には、触り心地のよいクッションやぬいぐるみを用意するという手もあります。手頃な価格のビーズクッションや緩衝材のプチプチを繰り返し遊べる玩具もあります。とにかく一定の時間だけ両手が塞がればよいのです。なるべく楽しめるものを見つけましょう。

 お子さんがアトピー性皮膚炎の場合、かきはじめたら両手を握って一緒に歌って踊ることをおすすめしています。「かいちゃだめ!」と叱るのではなく、両手をつないで踊ってみてください。ミュージカルのように大げさに踊ると大人もけっこう楽しいですよ。

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