福島工戦後、インタビューに答える日大東北・斉藤投手 (C)朝日新聞社
福島工戦後、インタビューに答える日大東北・斉藤投手 (C)朝日新聞社

 今年も甲子園出場をかけた夏の熱い戦いが全国で行われているが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、全国高校野球選手権大会の地方予選で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「“神ってる”プレー&記録編」だ。

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 27個のアウトのうち、なんと25個までが三振という「神ってる」記録が誕生したのが、1983年の福島大会3回戦、日大東北vs梁川だ。

 日大東北の左腕・斉藤勝己は、内外角の高めをつく直球と低めに決まるカーブのコンビネーションで初回から三振の山を築く。1回2死後から6回2死まで15人連続三振を記録するなど、付け入る隙を与えない。

 14対0とリードした9回も連続三振であっという間に2死。しかも、この時点で安打を1本も許していなかった。

 だが、1番・斉藤正勝にカーブを中前にはじき返され、あと1人でノーヒットノーランならず。それでも次打者を空振り三振に打ち取り、夏の地方大会では、34年に京都商の沢村栄治(元巨人)が記録した「23」を更新する25奪三振、被安打1、与四球1で完封勝ち。「初回の四球と9回の安打があったから、80点の出来です」と自己採点した。

 そして、翌日の4回戦、福島工戦でも新たな“伝説”が生まれる。

 連投の斉藤は、直球のスピード、コントロールとも今ひとつと見ると、前日2割程度だったカーブの割合を倍近くに増やし、打たせて取る投球を心がけた。

 投げつづけているうちに、直球もスピードが乗りだし、外角高めにビシビシ決まる。奪三振こそ11と減ったが、前日同様、9回2死までノーヒットノーラン。今度こそ快記録が誕生すると思われた。

 ところが、1番・加藤新一にカーブが真ん中に入ったところを中前に打たれ、またしても目前で快挙を逃す羽目に……。2試合連続ノーヒットノーランはあっても、2日連続「あと1人でパー」はおそらく前代未聞だろう。

 そんな記録にも記憶にも残る福島のドクターKも、4日連続試合が組まれた不運もあり、4連投目の準決勝で金沢健一(元ダイエー)の棚倉に延長10回の末、0対2と敗退。甲子園のマウンドに立つことはできなかった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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