群馬県は、県全体の外国人数はさほど多くないものの、同県大泉町は、突出して外国人比率が高いことで知られている。パナソニックやスバルの関連工場が数多く存在するこの町では、1986年には0人だったブラジル人が、2018年8月末現在4221人に上っている。なお、この町の人口は約4万1800人だが、ブラジル人他44カ国の外国人が約7500人いて、全体の約18%を占めている。町には4つの小学校があるが、最も外国人比率が高い小学校では約26%が外国人児童となっているそうだ(高橋幸春「外国人比率トップ群馬県大泉町の悲鳴」『文藝春秋』2018年11月号)。

 日本語指導の必要な児童・生徒が多い地域では、高校入試に特別枠を設けるなどの対応をしているところもある。しかし、受験資格に在日年数の制限がある場合が多く、入試倍率が上昇して不合格者も出るようになった。そこで、公立定時制や通信制、さらに受験倍率の低い一部の全日制高校に進学する、外国につながる生徒たちが年々増加している。
 
■アイデンティティの惑いが重荷に
 これらの生徒たちはいつから日本に住むようになったかにより、日本語コミュニケーション能力に大きな差がある。ほとんどの家庭では生徒より保護者の日本語会話能力が低く、教員と十分にコミュニケーションが取れない。生徒も日本語会話力はあっても、文章の読解力や表現力が弱いため義務教育段階で全ての教科の勉強が十分に習得できなかった者が多い。かといって、英語でコミュニケーションが取れるかといえば、先に挙げたように母国語が英語ではないので日本人以上に英語もわからない。
 
 日本語の能力によって生じる困難さだけでなく、外国にルーツを持つ者にはアイデンティティの惑いが強く生じることもある。これは、「教育困難校」以外の高校でもよく見られる特徴だという。両親の出自や経歴がわかっているのであれば良いが、一人親家庭で、不在の親のことを子どもにあえて隠すようなケースが「教育困難校」ではしばしば見られる。

 本人にとって、自分が何者なのか、何人(なにじん)なのか、どこの文化集団に属しているかというアイデンティティの不安は、非常に重い悩みになる。そこから、自暴自棄になり、問題行動に走る生徒も少なくないという。

<著者プロフィール>
朝比奈なを(あさひな・なを)
教育ジャーナリスト。筑波大学大学院教育研究科修了。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。