名波、森岡、宮本の3氏に共通するのは、Jトップチームの指導経験がほぼない状態でいきなり監督になった点だ。名波監督は現場経験なしでいきなりチームを率いたし、森岡・宮本両氏も育成年代や若手チームの指揮官を短期間努めただけ。2016年に名古屋グランパスの監督兼GMに抜擢され、J2降格のきっかけを作った小倉隆史監督(FC.ISE-SHIMA理事長)もそうだが、選手時代に華々しい実績を持つレジェンドがいきなり結果を残せるほど、Jリーグは甘くはない。過剰な期待も本人にとっては大きな負担や足かせになる。そこはクラブ側も配慮しなければならない部分だ。

 Jリーグで成功を収めている日本代表レジェンドの日本代表の森保一監督、FC東京の長谷川健太監督は、下積み時代を経験してから指導者キャリアを開花させている。いわゆる「ドーハ組」の2人は94年フランスワールドカップをあと一歩で逃し、選手として国際舞台には立っていないが、指導者としては着実に実績を積み重ねながらここまで来た。どんな人物でも一足飛びに名将にはなれない。そこは肝に銘じるべきだろう。

 現役時代のキャリアが輝かしければ輝かしい人ほど、「自分が思い描いていることがなかなか選手に伝わらない」「彼らはなぜこの程度のプレーができないのか」と思い悩むケースも多そうだ。2008年北京五輪で本田圭佑(メルボルン)や香川真司(ベシクタシュ)を指導した反町康治監督は2012年にJ2に昇格したばかりの松本山雅に赴いた際、「『選手のレベルに自分の指導内容を合わせないといけない』考えて、基本中の基本から取り組んだ」と話していたが、柔軟にこういったアプローチがきないのが、かつて名選手だった指導者の苦しみなのかもしれない。

 その壁を何とか乗り越え、J1トップにのし上がり、森保監督の次の代表監督に名乗りを挙げるのは果たして誰なのか。2018年ロシアワールドカップでフランス代表を20年ぶりの世界王者へとけん引したディディエ・デシャン監督のように、ワールドカップ出場経験のある代表レジェンドが名将になるケースが日本にも近い将来、出現していいはずだ。そういう人材が続々と頭角を現し、鎬を削るような時代がいち早く訪れることを、多くのサッカー関係者やファンが待ち望んでいる。(文・元川悦子)