多くの女性が子供を5人以上産んでいた頃と比べて、現代の女性は月経回数がとても増えています。初潮年齢も今より遅く、また妊娠や授乳を繰り返していたため、月経が止まっている期間が長いからです。

 月経や排卵の回数が増えた結果、私たち現代の女性は、子宮内膜症、子宮体がん、卵巣がんになりやすくなり、また出産回数が少ないと、乳がん発症のリスクが高くなることがわかっています。

 読者のみなさんのなかには、月経前のイライラや憂うつ感に悩まされている方も多いのではないでしょうか。これを月経前症状群(PMS)といい、月経の始まる3日~10日前頃から症状が出現し、月経が始まると軽減したり、消失したりするのが特徴です。おなかや乳房の張り、腹痛といった身体の症状から、イライラや憂うつといった精神的不調を生じることもあります。

 また、月経中に強い下腹部痛や腰痛といった症状に悩まされている方もいらっしゃると思います。この月経困難症では、子宮内膜で作られるプロスタグランジンという物質によって、子宮が収縮するために腹痛や腰痛が生じたり、頭痛、吐き気、下痢などの症状が引きおこされたりします。ただし、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が原因となっている場合もあるので、痛みがひどければ一度医師に相談することをお勧めします。

 ここで、毎月当たり前のようにやってくる月経が、どれほど女性の生活や仕事に支障をきたしているかを調査した結果を紹介します。

 2019年6月、オランダのラドバウド大学医療センターのSchoep氏らは、FacebookやTwitterなどソーシャルメディアで募った15~45歳のオランダ女性32,748人へ行った調査の結果、生理症状のせいで仕事や勉強が普段よりはかどらない日が1年間に平均およそ23日あり、それらの生産性低下を合計すると、年間約9日間を棒に振っていると報告しました。対象となった女性の13.8%が月経期間中に欠勤を報告し、3.4%が毎月またはほぼすべての月経周期で欠勤を報告しており、生理と関連して女性がとった病欠の日数は、年間で平均1.3日であったといいます。

 最後に。「生理がつらければ休んでいいよ」と、男性の上司が当直を変わってくれたことがありました。自分から言い出せなかった私には、救いの一言でした。月経痛がひどくてトイレにこもるようになって初めて、低用量ピルを飲めば月経痛が改善されることを知りました。月経について、月経痛について、月経がもたらす影響について、改善策について、知識が広まる一助になれば、と願っています。

○山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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