■バーテンダー瀬戸康史に想いを寄せる

 同時期に放送されていたチョーヤ梅酒の『The CHOYA』は男女が入れ替わったパターンで、瀬戸康史がバーテンダー、土村芳が瀬戸に想いを寄せる女性客という設定だ。『The CHOYA』は同社の技術・品質の集大成ともいえるブランドで、今作では“梅酒の実まで愉しむ”ことをコンセプトに発売された実入りの商品を訴求している。となればあれこれ説明したくなるものだろうが、上質な味わいと女性の淡い恋心を重ねて「最高のしあわせ」とだけ表現しているのは奥ゆかしく風雅だ。土村が演じる女性もまさに“大和撫子”という透明感で、日本古来の果実酒のイメージにぴったりだ。「ゆったりと丁寧に味わうべきお酒なのだな」ということが、多くの言葉で事細かに説明されるよりも格段に伝わるのだから、映像とは不思議なものだ。

 最近のアルコールカテゴリーは細かい差別化ポイントをアピールしなくてはならず、CM表現もアルコール度数やカロリー、成分といったプロダクトの紹介に終始するものが多い。自社の商品を棚に置き続けてもらうためには矢継ぎ早に新商品を発売し、短期間で結果を出すことを求められる。悠長なことは言っていられないのが実情だと思うが、それでもやはりお酒のCMには“人の心”を酔わせる表現を期待したい。だって“理屈抜き”で心も愉しむのがお酒の醍醐味なんだもの。

●CM総合研究所/1984年設立。「好感は行動の前提」をテーマに、生活者の「好き」のメカニズム解明に挑戦し続けている。平成元年から毎月実施しているCM好感度調査をもとに、テレビCMを通じて消費者マインドの動きを観測・分析しているほか、広告主である企業へダイレクトにコンサルティングを行い、広告効果の最大化および経済活性化の一助となることを目指す。