吃音の人に対して「落ち着いて」「緊張しないで」と声をかける人もいるかと思います。まず大事なのは、緊張がそもそもの発症要因ではないということです。話す場面においてプレッシャーを与えすぎたからといって、誰でも吃音が生じるというわけではありません。ただ吃音当事者の人で、緊張する場面によって吃音が生じることはあると思います。ですから緊張はあくまで増幅因子のひとつ、ということになります。

 意外と人前で適度な緊張感があったほうがなめらかに話せる、という人もいるので、このあたりも簡単に一般化はできません。リラックスしている状態のほうが早口になりやすく、吃音が出やすいということもあります。

 いずれにしても、場面によって吃音が出るかどうかは人それぞれです。吃音ではない人が当事者と接するときに気をつけるポイントも、人それぞれ違います。極論を言えば、「どういうときにしゃべりにくいですか?」と聞いてしまうのがいいかと思います。

 それでは、実際に吃音で悩んでいる人はどこへ行けばいいかというと、小さな子どもの場合はかかりつけの小児科や療育センターでまず相談してください。一方、大人の吃音に関しては難しく、ここに行けば必ず診てもらえる、というところはなかなかありません。こうした場合は、吃音当事者の団体で最大規模の「言友会」(※2)を頼るのがいいかと思います。私自身、吃音をもっていて言友会の会員でもありますが、組織的にしっかりしていますし、相談してみれば、当事者としてできることを教えてくれると思います。ひとつの相談窓口になるはずです。

 ここ数年、発達障害などの「見えない障害」に社会が注目し始めたことで、そうしたものへの理解も進みつつあります。徐々に情報も出始め、手が差し伸べられていると思います。「吃音は障害なのか」という話をしましたが、結局、個々の吃音を障害と捉えるかどうかは本人が決めればいいことです。手帳を持つことで周囲から配慮を受けたいというのも、恥じることではありません。手帳に限らず、今後そういった動きが進んでいくのはいいことだと思いますね。(文/白石圭)

◯富里周太(とみさと・しゅうた)医師/国立成育医療研究センター・耳鼻咽喉科。映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」吃音監修。

(※1)
Blumgart E, Tran Y and Craig A: Social anxiety disorder in adults who stutter. Depress Anxiety, 2010
成人の吃音当事者のうち、約40%が社交不安障害といわれている。

(※2)特定非営利活動法人 全国言友会連絡協議会
(全国の地域別の言友会のリンク集)