初戦から準々決勝までの4試合を2番ショートで出場していた折尾愛真の守備のキーマン・斉藤隼人(2年)が背番号6のユニホームを寮に忘れてきたことが、試合前に明らかになった。

 規定により、背番号のない選手は試合に出場できない。このままだと球場にユニホームが届くまで斉藤を出場させるのは不可能と思われたが、ここで明野高時代に3季連続の甲子園出場経験を持つ奥野博之監督の脳裏に一発大逆転のアイデアが浮かぶ。なんと、背番号9の3年生・古野皓大の「9」を外し、逆さまにして斉藤のユニホームに縫いつけたのだ。確かにこれなら「6」になる。

 その代わり、古野は試合前の整列に参加できなくなり、斉藤のユニホームが届いた1回裏までベンチ裏で待機することになったが、「先輩に迷惑をかけた分まで」と発奮した斉藤は安打と2四球で出塁してすべて生還。50メートル5秒8の俊足を生かして二盗を2度決め、一塁走者だった6回には右前安打で一気に三塁を陥れるなど、チームの勝利に貢献。この大活躍に、「忘れたことは仕方ない。笑っていこう」と斉藤を送り出した奥野監督も「盗塁は執念でしたね」と笑顔を見せた。

 途中出場した古野も「(背番号の付け替えが)勝利につながったかどうかわからないが、貢献したかった」と黒子役らしいコメント。上級生も下級生も一体となって、チームの結束力を発揮した同校は、決勝でも飯塚に12対9と打ち勝ち、見事甲子園初出場。斉藤は甲子園で本塁打を記録している。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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