野営地の中を歩くFARCの戦闘員たち (c)朝日新聞社
野営地の中を歩くFARCの戦闘員たち (c)朝日新聞社

 コロンビアは、2016年11月に左翼ゲリラFARC(ファルク)との間に和平合意を締結。FARCは武装解除し、半世紀以上にわたる内戦が終わった。14年9月から約4年間、中南米特派員を務めた田村剛・朝日新聞記者は、FARC野営地にて、現在は一般市民となった戦闘員と寝食を共にして取材。彼らの意外な一面に触れた。著書『熱狂と幻滅 コロンビア和平の深層』より一部紹介する。

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■ゲリラでも、女であることはやめられない

「女性なら、自分をきれいに見せたいのは当たり前。ゲリラに入ったからって、自分が女であることをやめられるわけじゃない」

 腰まである長い髪をブラシでとかしながら、女性戦闘員のダマリス・マルティネス(32)はそう言って笑った。私が彼女のテントの前を通りかかったとき、ちょうど水浴びから戻ったばかりだった。

外からも中が見える小さなテントには、手作りのベッドとテーブル、それにベンチがあるだけ。ダマリスは1本に結い上げた黒髪を紫色のゴムで結ぶと、左手に鏡を持ち、立ったままで丹念にまつげにマスカラを塗り始めた。

 ダマリスはFARCの占領地域だったメタ県のレハニアスで生まれた。兄と一緒に戦闘員になったのは13歳の時。これまでの19年間は戦いの連続だった。死と隣り合わせの毎日。それでも、彼女は化粧をすることを忘れなかった。

「戦闘員であることと女性であることは、全く別次元の問題でしょ」と私に言った。

 ダマリスの話を聞いていると、向かいのテントにいた女性戦闘員パオラ(37)が話しかけてきた。彼女の長い髪は赤と緑のピンで留められ、爪には赤いマニキュアが塗られていた。「いい物を見せてあげる」。パオラはそう言うと、私を自分のテントの中に案内した。

 パオラが見せてくれたのは、木製のテーブルの上に小さな鏡を置いただけの手作りの鏡台だった。わずかなクリームや化粧水が小さなラジオの横に並べられていた。「すてきでしょ。自分で作った鏡台よ」と、彼女は少し照れくさそうに言った。木の葉を敷き詰めたベッドの上の枕には、赤いバラとイルカの模様が刺しゅうされていた。地面がむきだしの簡素なテントなのに、内部には女性らしさが漂っていた。

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