■外科治療 開頭術か脳血管内治療か 治療方法を検討する

 脳動脈瘤の治療にはおもに二つの方法があります。一つは開頭しておこなう「ネッククリッピング術」という手術、もう一つはカテーテルを使った「コイル塞栓(そくせん)術」という脳血管内治療です。どちらの治療にするかは脳動脈瘤のある場所、大きさや形状、患者の状態などによって選択されます。二つの治療法にはそれぞれにメリット、デメリットがあります。

 くも膜下出血の場合の治療法も基本的には同じですが、発症した時に搬送された病院によっては一方の治療法(ネッククリッピング術)しかない場合もあります。

 ネッククリッピング術は全身麻酔をかけて頭蓋骨の一部を切り開き、手術用顕微鏡で確認しながら脳動脈瘤の入り口(ネック)に直接、クリップをかける方法です。チタン合金製のクリップで、形は直線型、L字型などの種類があります。ネックの大きさなどによって複数のクリップを組み合わせて使う場合もあります。

 手術中には脳の神経や血管を傷つけないよう、術中モニタリングが欠かせません。脳に弱い電流を流して手足の動きを確認し、運動機能を傷つけないようにするMEP(運動誘発電位)や、患者の静脈に蛍光物質を注射し、近赤外線観察カメラで血流や脳動脈瘤の閉塞を観察するICG血管撮影を用います。

 ネッククリッピング術の最大のメリットは根治性の高さです。

「クリップをかけると脳動脈瘤への血流を完全に遮断できるので、再破裂のリスクはほとんどありません」(同)

 また、全国で広くおこなわれているので、多くの医療機関で治療を受けられるのもメリットです。

 デメリットは手術時間が平均3~5時間、入院期間も2週間程度と長く、患者の負担が大きいこと、頭蓋骨を開いて脳に直接ふれるので血管や神経を傷つけて合併症につながるリスクがあることです。

 一方、カテーテルを使ったコイル塞栓術は直径2ミリほどのガイディングカテーテルを足の付け根にある大腿(だいたい)動脈から入れ、モニターで確認しながら首の内ない頸(けい)動脈あるいは椎骨(ついこつ)動脈まで進めます。そこにマイクロカテーテルを通して脳動脈瘤の位置まで到達させたらマイクロカテーテルからプラチナ製の軟らかいコイルを少しずつ出して脳動脈瘤に詰め、血液が流れ込まないようにします。ネックが広い場合は、風船状のバルーンカテーテルや、ステントという細かい網目状の金属の筒を併用します。

 コイル塞栓術のメリットは開頭しないため脳に直接ふれることがなく、手術時間は2時間程度、入院日数も5~7日ですむので、患者のからだへの負担が少ないことです。日本ではまだ治療全体の4割ほどですが、増加傾向にあります。

「この治療には日本脳神経血管内治療学会による専門医制度があり、脳血管内治療を100例以上、そのうち20例は自分が施術したという実績と、筆記試験によって認定されます。専門医であればほぼ同程度の実力をもっているといえるでしょう」(同)

 デメリットは治療後にふたたび脳動脈瘤に血液が流れ込む「再開通」の可能性があり、再破裂の危険性も数%あること、専門医が偏在しているため治療を受けられない地域があることなどです。

(取材・文/須藤智香)

○取材協力
獨協医科大学越谷病院
病院長
脳神経外科 特任教授
兵頭明夫(ひょうどうあきお)医師

※週刊朝日ムック「脳卒中と心臓病いい病院」より