2019年2月、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は米国の中高生のたばこの使用率について報告しました。それによると、高校生における燃焼式のたばこ(従来のたばこ)の使用率は2011年から2018年に21.8%から13.9%へと低下したものの、電子たばこの使用率は1.5%から20.8%に上昇したことがわかりました。さらに、2017年から2018年にかけて、電子たばこを含むたばこの使用は中学生で28.6%(5.6%から7.2%)増加、高校生で38.3%(19.6%から27.1%)増加し、電子たばこの使用は、高校生の間で77.8%(11.7%から20.8%)、中学生の間で48.5%(3.3%から4.9%)増加していたことがわかったのです。

 加熱式たばこやニコチンが含有された電子たばこには、燃焼式のたばこと同様に依存性薬物であるニコチンが含まれています。しかしながら、「煙が出ない」「煙が見えにくいため禁煙エリアでも吸うことができる」「受動喫煙の危険がない」「従来のたばこより健康へのリスクが少ない」と誤解され、急速な広がりを見せているのです。

 アイオワ州立大学のBao氏らによる、電子たばこ使用経験がある米国成人の割合は2014年から2016年にかけて、12.6%から15.3%に増加し、特にかつて喫煙していた禁煙成人や喫煙経験のない人の電子たばこの使用率が増加していたという報告も、こうした誤解からでしょうか。

「煙が出ない」「煙が見えにくい」といわれる加熱式たばこや電子たばこを加熱すると、白い水蒸気を発生します。確かに、葉たばこを燃焼したときの紫煙がぷかぷか浮遊する様子は見えませんが、特殊なレーザー光を喫煙者が吐いた空気に照射すると、大量のエアロゾルを確認することができます。従来のたばこ同様に、見えないエアロゾルをたくさん放出しているのです。

 この電子たばこのエアロゾルに対して、世界保健機関(WHO)は健康に悪影響がもたらされる可能性があり、受動喫煙者の健康が脅かされる可能性が高いと指摘しています。

 加熱式たばこや電子たばこは、従来のたばこに比べれば、たばこ煙中の有害物質のうちの粒子成分であるタールが削減されているものの、依存性物質であるニコチンやその他の有害物質を吸引する製品であり、使用者にとっても、周囲の人(つまり受動喫煙となる人)
にとっても有害と考えられます。日本呼吸器学会は、これらのたばこの使用は推奨できないと指摘しています。

 1990年から2015年までの195カ国の地域における喫煙有病率と起因する疾病調査による系統的分析によると、全世界の男性の4人に1人(25%)が喫煙を続けており、全世界の死亡率の1割以上(11.5%)が喫煙に起因していることがわかったと、Lancet誌に掲載されています。

 日本でも加熱式たばこが急速に普及する昨今、今後は加熱式たばこを含む喫煙自体が増えるかもしれません。サンフランシスコやビバリーヒルズでの電子たばこ全面禁止の取り組みが全世界で普及していくのか、期待したいと思います。

○山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

著者プロフィールを見る
山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

山本佳奈の記事一覧はこちら