93年には沢村賞を受賞した中日の今中慎二 (c)朝日新聞社
93年には沢村賞を受賞した中日の今中慎二 (c)朝日新聞社

 昔も今も、その希少価値と有効性、そして観るものを異世界へと導く天才的なピッチングで、球界に大きな足跡を残しているのが左投げの投手たちである。これまで数々のサウスポーたちが活躍し、その記録もさることながら我々の記憶に強烈な印象を焼き付けてきた。

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 では、史上最強のサウスポーは誰か。この問いの解として、多くのOB、識者が名前を挙げるのが、金田正一と江夏豊のレジェンド2人だろう。金田は「手元でホップする」と言われた威力抜群の快速球と鋭く曲がるカーブを武器に、日本史上唯一の通算400勝をマークし、沢村賞を計3度受賞。江夏は先発としては日本記録のシーズン401奪三振、リリーフとしても歴代最多タイの計5度のセーブ王に輝き、オールスターゲームでの「9者連続三振」や日本シリーズでの「江夏の21球」など語り継がれる伝説を残した。この昭和を代表するレジェンド2人は、記録にも記憶にも残る偉大なサウスポーだった。

 だが如何せん、時代が古くなった。「記憶」という意味では、平成以降の投手たちの方が、現実的に覚えている方が多いだろう。その中では、50歳まで現役を続けた山本昌や前人未到の通算1000試合登板&400セーブを達成した岩瀬仁紀、自慢の快速球でメジャーでも活躍した石井一久、3球団で日本一を経験した“優勝請負人”工藤公康などがいるが、「記憶に残る」という意味では、星野伸之、今中慎二の2人を挙げたい。

 星野は、アスリートとは思えない細身の体ながら、出所が分からないフォームから繰り出す130キロに届かないながらも伸びのあるストレートに80キロ台のスローカーブとフォークボールのコンビネーションを駆使し、緩急巧みなピッチングで打者を手玉に取った。その芸術的とも言えた投球は、過去現在を見渡しても唯一無二の存在だった。星野より5歳年下の今中も、タイプ的には同じ。細身の体型から、全盛期には150キロ近い切れ味抜群のストレートを繰り出したが、それ以上に100キロ前後のスローカーブと、それよりもさらに遅い70キロ台から80キロ台の超スローカーブを有効に使い、1993年には最多勝(17勝)、最多奪三振(247奪三振)に加え、審査項目を全て満たして沢村賞を受賞した。

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リリーバーにも記憶に残る左腕