治療に対する不安感、ギモン、口を開けているのがつらい、口の中に水分(唾液)がたまってつらい、トイレに行きたい、などなんでも構いません(ただし、携帯電話が鳴ったから出たい、というのは当然ながらあまりよろしくないのです。治療中、電源はあらかじめ切っておきましょう)。

 当院には歯科恐怖症の患者さんがけっこういるので、治療中に不安で「ドキドキ」が止まらなくなり、「今日はダメです。帰ります」と治療の中断を希望されることは珍しくありません。

 この場合、もちろん、患者さんの意向を尊重します。患者さんの不安が強いと、貧血などの体調不良を起こしてしまうこともあります。もっとよくないのは、歯科がますます苦手になってしまうことです。ですから、

「無理をして治療を継続することはありません。心構えができたら、また、予約をとってくださいね」

 と言って、その日はお帰りいただきます。

「“口を開けているのがつらい”と感じているけれど、我慢している」

 という人はかなり多いと思います。これについても、どうぞ、手を上げてください。

 これは私自身、経験があります。大学の同級生の歯科医に奥歯の神経の治療(根管治療)をしてもらったときのことですが、口を開けっぱなしの状態が約15分間、続きました。相手は気の置けない友人ですから、ていねいな対応はいらないのですが、これはさすがにつらくて涙が出そうになりました。

「閉じていいぞ」といわれても、あごがかたまってすぐには閉じられません。体が硬くなった影響からか頭痛も起こり、「我慢せずに、手を上げていればよかった」と思った瞬間でした。

 若い患者さんはともかく、中年や高齢者が長時間、口を開け続けるのはなかなかつらいと思います。こうしたこともあって、当院では歯を削るなどの処置の際、1分以上は口を開けないようにし、時間はかかりますが、少しずつ治療を進める方法を取っています。

○若林健史(わかばやし・けんじ) 歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演

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若林健史

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若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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