阪神時代の1995年オフにも「野球に対するセンスがないって見切った」と突然の現役引退宣言(のちに撤回)をした過去を持つ“お騒がせ男”だが、日本ハムの一員となって3年目の2006年の4月に放ったシーズン初本塁打を、「28年間思う存分野球を楽しんだぜ。今年でユニフォームを脱ぎます打法」と自ら命名し、ヒーローインタビューで当シーズン限りでの引退を宣言。その後、連日の「新庄劇場」でチーム、ファンを盛り上げて見事にリーグ優勝を果たすと、最後は日本ハム入団会見時で掲げた「札幌ドーム満員」&「チームの日本一」の2つの目標を達成し、34歳で颯爽と現役を退いた。

 新庄とは違った格好良さがあったのが、黒田博樹である。メジャーからの巨額オファーを断って“男気”で古巣・広島に復帰。その最初の会見で「2ケタ勝てなければ辞める」と宣言した男は、2年目の2016年に球団25年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献し、その歓喜を置き土産に現役を引退した。復帰2年連続での2ケタ勝利をマークした中での決断に「全く悔いはない」とキッパリ。直後の日本シリーズでは惜しくも敗れたが、しっかりと自らの野球人生に納得した形で幕を引いた。

 野球界のみならず、千代の富士や中田英寿など、スーパースターの引き際には“美学”があった。もちろん「ボロボロになるまで」現役を貫く姿も格好良いものがあるが、「惜しまれつつ」の中にある美しさはいつの時代も色褪せない。華やかに咲き、潔く散る。「桜」を愛する日本人の多くが、その美学を知っている。