今やブレイク芸人の筆頭格(c)朝日新聞社
今やブレイク芸人の筆頭格(c)朝日新聞社

 かつて芸人というのは社会の枠からはみ出した日陰者だと見なされていた。博打で借金を重ねたり、女遊びに溺れて身を持ち崩したりするのは、一般社会では許されないことだが、芸人はそういう生き方をしても構わない、という扱いを受けてきた。

【画像】デビュー前は互いに嘘の職業を伝えていた千鳥

 だからこそ、一昔前までの芸人は、数々の豪快な伝説を残してきた。派手に飲み歩いたり、女遊びをしたりするのはもちろん、テレビの規制が緩かった時代には、テレビの中でも裸になったり問題発言をしたりして、過激な笑いを追求してきた。

 しかし、コンプライアンス重視が叫ばれる現在では、そういう芸人はめっきり少なくなってしまった。もう時代が違うから今の芸人にそれを期待するのは酷な話だ、というのが一般的な認識になっている。

 でも、いまテレビの最前線で活躍している中堅芸人の中で唯一、そういう昔ながらの芸人っぽい雰囲気を漂わせている芸人がいる。それは千鳥の大悟である。彼は酒好き、タバコ好き、女好きを公言していて、「芸のためなら女房も泣かす」を地で行く現代のアウトロー芸人である。

 大悟は妻子がある身でありながら、週刊誌で二度も不倫疑惑を報じられている。現代の基準で言えば、間違いなく猛バッシングを受けてもおかしくないはずなのに、なぜか人気や好感度はそれほど落ちていない。イメージが最も重視されるはずのCMにすら堂々と出ているのは本当に不可解である。

 大悟の豪快伝説はこれだけではない。夜通し酒を飲みすぎてロケに遅刻したりしたこともたびたびあるというのだ。最近、彼自身がラジオで話していたのは、先輩であるとんねるずの石橋貴明との初めてのロケに遅刻するという大失態を犯したことだ。大悟はその前にもスタジオ収録の番組で石橋と共演したことがあり、そのときに酒好きというキャラクターが認知されていたため、必死で謝罪することで何とか難を逃れた。ただ、スタッフからは「5年前だったら死んでたぞ」と忠告された。

 また、同じく大先輩であるヒロミのロケにも遅刻したことがある。このときには、泥酔しすぎて真冬なのにズボンをはいていない状態で現場に現れたため、ヒロミが思わず笑ってしまい、大事には至らなかったという。お互いの信頼関係で成り立っている芸能界では、先輩に対する無礼というのは、それ一発でクビが飛んでもおかしくない一大事である。ところが、大悟は二度もその難局を乗り切っている。

 実際、先輩芸人の間で大悟の評判は悪くないようだ。むしろ、愛されているという話もある。よく知られているのは、志村けんに気に入られていることだ。番組共演を機に親しくなり、クリスマスイブの夜を志村と一緒に過ごしたこともあったという。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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