令和初の選考となる第161回芥川賞の候補作が6月17日発表となった。

 今村夏子(いまむら・なつこ)「むらさきのスカートの女」(小説トリッパー春号) 、高山羽根子(たかやま・はねこ)「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル 」(すばる5月号)、 古市憲寿(ふるいち・のりとし)「百の夜は跳ねて」(新潮 6月号)、古川真人(ふるかわ・まこと)「ラッコの家」(文學界 1月号)、 李琴峰(り・ことみ)「五つ数えれば三日月が」(文學界 6月号)の5作だ(著者敬称略・50音順)。

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 今村夏子の「むらさきのスカートの女」のあらすじは、近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが、気になって仕方のない<わたし>が、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で働きだすように誘導し……と、先の展開がまったく読めない。今回で3回目のノミネートとなるが、雑誌掲載時から新聞各紙の文芸時評などで紹介されている注目作だ。

「隙だらけのようで油断のならない筆捌きはもはや名人芸の域に達している。物語は後半、思いも寄らぬ展開となる。読む側の心持ちによって、ユーモア小説にも、不気味な話にも、痛ましい物語にも姿を変える、今村にしか書けない作品である」(東京新聞、2019年3月28日=評者・佐々木敦)

「この著者らしくやさしい言葉で大きな世界を紡ぎ出す。(略)この世に一方的に蔑んで良い人間はいないことを、別の女の目から浮き彫りにした」(読売新聞、2019年3月26日=評者・待田晋哉) 

 高山羽根子は、第160回で候補となった「居た場所」に続く、連続2回目のノミネート。「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル 」は、死んだ祖母の背中の美しさや、高校時代の出来事など、主人公の記憶の断片が綴られ、少しずつ主人公の過去が浮かびあがってくる。

 同じく連続2回目のノミネートとなる古市憲寿の「百の夜は跳ねて」は、就職活動に失敗し、高層ビルの清掃業に従事する23歳の男性が主人公。清掃中に出会った年配の女性からの依頼で清掃するビルの盗撮を始める。

 古川真人「ラッコの家」は、古川がこれまで一貫して描き続けている九州の方言が優しく響く作品だ。古川は、今村と同じく3度目のノミネートとなる。

 初のノミネートとなった李琴峰「五つ数えれば三日月が」は、台湾からの留学生としてきて、そのまま日本で就職した主人公が、5年ぶりに大学院時代の同級生と出会うところから作品が始まる。

 直木賞と同じく、7月17日に東京・築地の新喜楽で選考会が行われる。