酵母がアルコールを欲したのではなく、あれはあくまでも副産物。酵母はある濃度のエチルアルコールでは死なないので、その「アルコール耐性」のために自分の産物のために死ななくてすむ。乳酸菌が乳酸では死なないのと同じだ。

 人間もATPを作ってエネルギー源にする。ATPを作るのに必要なのは糖と酸素だ。ATPを作ったあとの副産物が水と二酸化炭素だ。酸素を吸って、二酸化炭素を吐く、人間が呼吸を必要とするのはエネルギー(ATP)を体内で作るためなのだ。

 人間がカロリー(食物)を必要とするのも同じ理由だ。もっとも、食べ物はエネルギーだけでなく人体そのものの構成要素、材料にもなってくれるのだが。その食べ物だが、アルコール摂取と一緒に脂肪分が多い食べ物を食べるとアルコールの吸収が遅くなったり、血中濃度が下がったり……つまりは酔っ払いにくくなる、という説がある。

 これはおそらくある程度は事実であろうが、オリーブオイルはむしろアルコールの吸収を速めるというデータもあり、一貫していない。個人差も大きい。

 よって、「食べ物があれば酔っ払わない」というのは言いすぎだろう。同様に「牛乳を飲むと胃に膜がはって酒が吸収されにくい」という説もあるが、これも相当大量の牛乳を飲まないとダメなようだ。

 なんでも「程度問題」なのであり、ちょっと牛乳を飲む程度では効果は微々たるもののようである。Holt S. Observations on the relation between alcohol absorption and the rate of gastric emptying. Can Med Assoc J. 1981 Feb 1;124(3):267–97.

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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