しかし、何度言っても盗まれているという考えは変わらず。受診に至るころには鍵を何度も付け替えるようになってしまい、ご家族もたいへん困ってしまったとのこと。

 また、別のケースで「一緒に暮らしている嫁に財産を取られている」と主張される80代女性のCさんがいました。Cさんは、興奮して攻撃するようなこともなく比較的穏やかでしたが、周りの方が「盗むようなことはない」と繰り返し説明しても考えは変わりませんでした。

 Cさんは、そのお嫁さんに介護をしてもらっているそうで、初回もお嫁さんに付き添われて受診されています。初めは、お嫁さんも気にしないようにしていたようですが、事態は次第に悪化。「取られてもしょうがない。この人(お嫁さん)にお世話にならないとどうしようもないから」と言われるようになったそうです。その言いぶりに耐えきれずご主人に相談したところ、説得に動いてもらいどうにか受診につながったそうです。

 受診のタイミングについては、個人的にも日頃からよく相談を受けます。身近な人からの相談であればある程度状況を聞いて答えるのですが、状況がわからない場合は「普段の様子と明らかに違うな」と感じたら一度受診してみることを勧めています。今回のケースでは、一緒に過ごされているAさんだけでなく、お子様や以前からご主人のことを知っているご友人が心配されていることから、何かしらの変化が起きているのは明らかに思います。

 しかし、周囲が受診を勧めても全てが受診に結びつくわけではありません。むしろ、いきなり精神科受診を勧めても気軽に応じてもらえるほうが珍しいのではないでしょうか。実際のところ、本人の同意を得ることがハードルとなってしまうことも少なくなく、受診まである程度の時間を要することが多いように思います(もちろん、「新規患者の予約枠が数カ月先と言われた」など、われわれ医療者側の態勢が十分でないといった場合もあると思います)。

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