※写真はイメージ(Getty Images)
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「どうしていつもこうなるのか……」。パートナーに対してそう感じることはないだろうか。カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く本連載、今回は「無限ループ」について解説する。

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 先日、藤井聡太七段が千日手(せんにちて)を制して勝ったというニュースがありました。私は駒の動かし方ぐらいしかわからないのですが、千日手というのは面白い現象だと思います。簡単に言うと千日手とは、それぞれが最善手を打ち続けた結果、無限ループに陥ってしまうことで、同じループが4回現れると対局は最初からやり直しになるのだそうです。ただ、対局中にどちらも気付かなければ千日手とは認められず、連続王手の千日手は反則負けなのだそうです。

 連続王手の千日手というのは、カウンセリングでお聞きする夫婦の話と似ているな、と思いました。お互いに自分が最善だと思う対応をする結果、相手方からすると王手をかけられたような感覚になり、それに対応するための自分が考える最善の対応をすると、結局2人の間では同じことが繰り返されるという無限ループに陥ることがしばしば起きるのです。

 正雄さん(30代前半、研究職)は、妻と意見が違うとき怒りが生じます(本人は怒っているという意識がないですが)。妻の綾子さん(30代前半、営業秘書)は、争いごとが嫌いなおとなしい人です。夫が怒り出すと怖くて頭が真っ白になり、何も考えられなくなってしまうので、普段から夫が怒らないように細心の注意を払っています。それでも綾子さんには予測不能のことで怒りを買ってしまうことがあります。

 先日の出来事です。

 綾子さんは、忙しい夫のために、今までと同じように自動車保険の更新をしておきました。しかし、夫は保険をもっとリーズナブルなものに変えようと思っていたので、勝手に更新されてしまったことにムッとしました。

 正雄さんが聞きます。

「保険は〇〇を××にすれば、安くなるって、言ったじゃん。なんで、勝手に更新しちゃったの?」

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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「ごめんなさい」としか言わない妻と夫の本音