ツッコミ芸人の南海キャンディーズの山里亮太(撮影/今村拓馬)
ツッコミ芸人の南海キャンディーズの山里亮太(撮影/今村拓馬)

 芸人にもいろいろなタイプの人がいるが、南海キャンディーズの山里亮太ほど「受け身」に特化している人は珍しい。山里は誰もが認める「受けの天才」だ。何か言われたときに、それに対して即興でコメントを返して笑いを取る。その速さと正確さにかけては右に出る者がいない。

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 テレビに出ているレベルの芸人は「ボケ」「ツッコミ」「イジり」「リアクション」など、何らかの分野で卓越した技術を持っている。それらの技術は素人目にも分かりやすいし、目立ちやすい。だが、山里が持っている「受け」の技術はそこまで目立たない。だから、彼がその部分に秀でていることに気付いていない人も多い。

 山里は自分の得意なフィールドに相手を誘い込むのが上手い。そのための「不細工キャラ」であり、「モテないキャラ」なのだ。芸人に限らず、誰もがそこに踏み込んでいいし、イジっていい、という雰囲気を作っておく。そして、そこに入ってきた人間がいれば、すかさずその言葉尻を捕らえて、笑いに変えてしまう。

 山里と付き合いの深いオードリーの若林正恭は、彼のそのような手法を「山里関節祭り」と表現していた。立ち技での勝負を避けて寝技に誘い込み、すきを突いて関節技をきめる格闘家になぞらえているのだ。

 山里は南海キャンディーズでツッコミを担当している。ツッコミ芸人がテレビに出るときには、他人に対するツッコミやイジりを主力武器として用いることが多い。

 ただ、他人をイジって笑いを取るのはそれほど簡単なことではない。技術が要るのはもちろん、芸人としての「格」が必要なのだ。なぜなら、他人を自分の価値観でこき下ろしたりすると、偉そうに見えてしまうリスクがあるからだ。だから、偉そうに見えてもいいくらいの圧倒的な地位を得ている人か、もともと偉そうなキャラの人しかこの手法は使えない。

 だからこそ、あらゆる場面で自分を下に置いている山里は、この手法を選ばなかった。あえて攻めさせておいて、それに対する反撃やぼやきを笑いにする「受け」の手法を選んだのだ。すべてのフリに対して、自分を下げて落とす。自虐ネタに特化して、自分で責任を取る笑いを貫いた。頼りになるのは自らの言葉選びのセンスと、自分を貶める覚悟だけだ。山里は「受け」のプロフェッショナルとして、誰も傷つけず、スマートに笑いをさらっていく。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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