逆説的に考えると、玉石混淆の情報にまみれているがゆえに“信じられること”の価値が上がっていると言えよう。日常風景を切り取ったような“等身大”のCMが支持されるということは、視聴者が “非日常への憧れ”や奇抜な演出だけではなく、リアリティや信じられる根拠をCMに求めるようになったということだ。 CMが「企業にとって都合のよい情報だけを詰め込んだもの」という前提で見られている中で、“誰かを演じる”のではなく“自分の言葉を話す”ことで勝負をするお笑いタレントは、正直なイメージや共感を持たれやすいのだろう。もちろん重要なのはお笑いタレントであるということではなく、自分の頭で考えて本音を言う人(のように見える人)ということだ。

■長嶋一茂ブームはなぜ?

 たとえばご意見番的存在のマツコ・デラックスは安定して番組にもCMにも起用されている。「金麦ゴールド・ラガー」に出演している長嶋一茂は昨年大ブレイクし、様々な番組で目にする機会が増えた。多様性や個性の尊重が叫ばれつつも、実際のところなかなかそうはいかなことも知っている“忖度疲れ”の人々にとっては、臆さず正直に物言う彼らがまぶしく映るのだろう。とはいえ、いくらテレビの中からであっても「本音を言おう!」とか「人目を気にするな!」と真正面から言われたらしんどい。仕事を終えて疲れて帰ってテレビをつけたときには、肩の力を抜いてヘラヘラ笑いながら本音を漏らす、くらい救いのあるCMが今はちょうどいいのかもしれない。

●CM総合研究所/1984年設立。「好感は行動の前提」をテーマに、生活者の「好き」のメカニズム解明に挑戦し続けている。平成元年から毎月実施しているCM好感度調査をもとに、テレビCMを通じて消費者マインドの動きを観測・分析しているほか、広告主である企業へダイレクトにコンサルティングを行い、広告効果の最大化および経済活性化の一助となることを目指す。