プロ野球最速の165キロを記録した当時日本ハムの大谷翔平(c)朝日新聞社
プロ野球最速の165キロを記録した当時日本ハムの大谷翔平(c)朝日新聞社
投球動作について解説する筑波大学野球部監督の川村卓准教授
投球動作について解説する筑波大学野球部監督の川村卓准教授

 大谷翔平(エンゼルス)の165キロを筆頭に、日本人投手が160キロ越えを連発している。高校生でも4月、佐々木朗希投手(3年、大船渡)が163キロを記録するなど、投手の平均球速はプロアマ問わず年々速くなっている。背景にあるのは何なのか。そもそも人間が投げる球の速さの限界は何キロなのか―。野球の動作解析に詳しい筑波大学野球部監督の川村卓准教授に話を聞いた。

【解説する筑波大学野球部監督の川村卓准教授】

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「球速が底上げされている要因は、研究による科学的な知見が蓄積されたことで、正しい知識が広まったことでしょう。野球の現場では1980年代、投球時に『腕はまっすぐ振り下ろしなさい』と投手に指導するのが一般的でした。しかしスーパースローでみると、どの投手も実際には投げるとき手首を内側にひねっています。当時、研究の現場ではわかっていましたが、その情報が指導の現場レベルにまで下りてくるのには時間がかかりました。指導力の向上にはネットやユーチューブなどが当たり前に利用されるようになった情報社会の恩恵もあると思います」

 全体のレベルが上がってきている中でも、160キロという速球は誰にでもだせるものではない。彼らに共通している要因はあるのだろうか。川村准教授は「大きく3つある」という。

「1つ目は『長身』だということです。体が大きければ腕も長い。肩を中心とした投球の際の回転運動は、腕の長さに比例して末端の指先も速く動きます。小柄でも速球を投げる投手はいますが、体幹や下半身の動きなどでカバーしているだけで、長身の選手が有利であることは間違いありません」

 大谷は193センチ、佐々木は190センチだ。161キロを記録した千賀滉大(ソフトバンク)が185センチ、国吉佑樹(DeNA)は196センチもある。

「2つ目は『肩甲骨の柔軟性』です。投球モーションでは、腕を後ろに引ける範囲が広いほど、リリースまでのボールに力を加える距離、時間が長くなります。大谷選手が腰に手を置いた両腕の肘を体の前でくっつけられるように、柔軟性はケガの予防だけでなく高いパフォーマンスにも貢献します。一方で過剰な筋力トレーニングは、この柔軟性を阻害します。三角筋や僧帽筋など複数の関節にまたがる大きな筋肉が発達しすぎると、それだけで力を賄おうとして、体の連動性が失われるためです。柔軟性と筋力、このバランスは非常に難しく、3つ目に重要な『下半身の動きを上半身にもうまく伝えられている』ことに関係しています」

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剛速球実現へ理想のアスリート像は…