ときに、雁屋哲原作の『美味しんぼ』ではやたらニッカウイスキーの評価が高く、サントリーの評価が(不当に)低くて不思議だ。ぼくはウイスキーはあまり飲まないけれど、たまに飲むと、ニッカもサントリーもとても美味しいとは思う。

 そういえば、「美味しんぼ」ではドライビールもけちょんけちょんにけなされていて、良くも悪くも作者の好みが強烈に反映されている。ドライビールも美味しいんですけどね。

 ラム酒は糖蜜を原料とした、ウォッカは穀物を原料とした蒸留酒だ。中国の白酒も穀物原料の蒸留酒だ。リュウゼツランは多肉植物だ。アメリカ大陸にあり、中に多くの糖が入った樹液が入っている。

 テキーラの原料として有名だ(厳密にはメキシコのテキーラ地域で造ったアオノリュウゼツランが原料なのがテキーラ。そうでない場合はメスカルという別名の酒になる)。

 リュウゼツランの樹液にはブドウ糖、果糖、ショ糖などいろいろな糖が含まれている。しかし、テキーラはこれを発酵させたものではない。食物繊維のイヌリンという炭水化物が葉っぱに入っており、葉っぱを切り落としてできたピニャという部分を加熱すると、イヌリンが分解されて果糖になる。これを発酵、蒸留させたのがテキーラだ。
 
 つまり、テキーラは日本酒や焼酎同様、炭水化物を糖化してから酵母によるアルコール発酵を行なうのだが、A. orizaeのような糖化を担当する微生物を介していない、ということだ。実に面白い(面白くないですか?)。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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