爪甲色素線条(そうこうしきそせんじょう)

 黒色の縦線が入った爪を「爪甲色素線条(そうこうしきそせんじょう)」と呼びます。これは爪の根元にある爪母(そうぼ)で色素細胞が増え、爪にメラニンが沈着したまま伸びていくために起こります。

 爪は爪の根元である爪母で作られます。ですので、爪の根元で何かイベントが起きると爪に反映されます。

 爪甲色素線条は爪の根元のほくろです。爪の工場である爪母にほくろの細胞が混入したため、生産される爪が黒く変化を起こした結果が爪甲色素線条です。

 この爪甲色素線条は良性で日本人の1%弱にあるといわれています。爪のメラノーマを心配して受診される患者さんのほとんどが爪甲色素線条です。

爪下(そうか)出血

 診察で多く見かけるのは爪下出血です。冒頭にも記載したように、私も部活をしているときによくなりました。爪下出血は足を踏まれたとか、足の上に物を落としたとか、明らかなけがだけでなく、何らかの理由で強く踏ん張った場合でも起こりえます。

 爪の下の内出血は時間が経つと黒く変化します。ダーモスコピーという皮膚科医用の虫眼鏡で観察すると、この爪下出血は赤みがかった黒であることが容易に判別できます。

 その他、爪の黒色変化は薬剤(ミノマイシンなど)でも起きますし、外傷で爪に黒系の色がついても当然起こります。

爪のメラノーマ

 では、爪のメラノーマを疑う所見とはどういうものでしょうか? 皮膚のメラノーマではABCDルール(以前の記事参照)という基準をもとにほくろとメラノーマを区別しましたが、爪甲色素線条(良性の爪のほくろ)と爪のメラノーマを見分けるポイントが四つあります。

1. 色・幅の不均一
爪に縦に入った線の幅が一定でなかったり、色調が不均一です。がん細胞はそれぞれの増殖がバラバラなため、色の濃い部分と薄い部分が出てきます。

2. 逆三角形
爪の根元の黒色領域の幅が広く、前端に向かって細くなる場合はメラノーマを疑います。これは爪の根元(爪母)でメラノーマ細胞が急激に増殖し広がったことを意味します。

3. ハッチンソン兆候
医学部の学生も習うこのハッチンソン兆候は、爪のメラノーマを疑う大事な所見です。爪に黒色の線があるだけでなく、その線を中心に皮膚にまで黒色変化がある場合、メラノーマを疑います。この皮膚に滲み出た黒色斑をハッチンソン兆候(ハッチンソンサイン)と呼びます。爪母のメラノーマが皮膚に増殖して拡大したサインです。

4. 爪の破壊
これは必ずしもメラノーマだけで起きる現象ではありませんが、爪の破壊が見られた場合は注意が必要です。爪母のメラノーマが増殖し、正常な爪ができなくなった可能性があります。爪の工場である爪母がメラノーマによってダメージを受けたため、不完全な爪が生え、先端では壊れてしまうために起きます。ちなみに爪水虫でも爪の破壊は起きますし、茶色がかった黒色変化をきたすことがあります。

まとめ
 今回は一般の方にあまり知られていない爪のメラノーマについて解説しました。本文で説明したように、爪が黒く変化したからといってすべてメラノーマというわけではありません。爪のメラノーマは皮膚科の中でも診断が非常に難しい疾患です。心配な場合は必ず皮膚科専門医に診察してもらうようにしてください。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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