本の第1章「身体作りは誰得で何得か」に、「サックスも演技もバラエティも決してメチャメチャ達者なわけではないですが」という文章が出てくる。誰得、何得という言葉はいまどきの人がSNSで使うのを見たことはあったが、書籍で見るとやはり独特で、これも彼の美学なのかもしれない。

 彼にとっての「バラエティ」イコール「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ系)で、第7章「茨の道にも花束を」には「体調が優れない時期もありながら、番組開始当初から現在に至るまで僕をレギュラー在籍させ続けてくれている『めちゃ×2イケてるッ!』には本当に感謝しています」と書かれていた。

「めちゃ×2イケてるッ!」通称「めちゃイケ」も昨年の3月末で終わったが、その20年以上にわたる歴史は、武田の中にちゃんと生きてるなあ、メチャメチャ達者ではないかもだけど、上手じゃん。というのも、「ラン×スマ」を見て感じたことだった。

 レギュラー出演者の田村亮(ロンドンブーツ1号2号)は、「めちゃイケ」のナインティナインと同じ吉本興業所属。田村も番組を通して走ってはいるが、武田の方が上級者なことは誰の目にも明らか。だから武田はそこをついて「亮さん」をいじるのだが、その加減が絶妙だった。いじりだけでなく、落ちのつけ方もうまい。

 田村が武田の語る走りの技術を「僕が最初に金(哲彦)さんに言われたことと同じ」と言い、「我流でそれにたどり着いたのは、すごいですね」とほめた。すると武田、「ありがとうございます」と返したあと、「ただ、これ、千葉真子さんに教えてもらいました」と落とした。「やっぱり、プロかー」と田村が突っ込むのだが、「ありがとうございます」と「ただ、これ」との呼吸の入れ方、めちゃイケOB感満載だった。

 番組冒頭、週2回、1回15キロという武田のランニングの映像が流された。1キロ5分半という走りの3キロごとにダッシュを入れる。ダッシュを終え、ハーハーと肩で息をする武田。「この瞬間ですよね。肋骨を広げないと追いつかないくらいの瞬間を、苦しいと捉えるか生きるよろこびの実感と捉えるか」。そう言った後のキメ台詞はこうだった。

「国民のみなさんに言いたいこと。肋骨、広げてる?」

 カメラ目線の武田に、肋骨を広げてない国民の一人として思った。

 説得力あるなー、武田、参院選に出たら、当選するんじゃないかなー。

 あー、なんだかほめすぎた。武田の優雅な肉体に、復讐されたのかもしれない。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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