薫ラバーさんが、この36年間、ためにためた思いをぶつけるのです。

 ただし、どんなに興奮しても、「両親を責めることが目標」ではなく、「とことん、自分の気持ちを吐き出して、新しい関係を作ることが目標」なのだということは忘れないで下さい。

 母親が元気なら、やがて逆ギレして、「なんで、そんな昔のことを文句言われなきゃいけないんだ。お前はおかしい」とか「アニメオタクは気持ち悪い。捨てて当然」とか言うかもしれません(というか、そういう母親の本音が出た方が健全な話し合いだと思います)。

 どんなに興奮しても、話し合いは続けて下さい。怒って終わったり、決裂したり、飛び出したりしないように。あんまり興奮して話せなくなったら、しばらく時間をおいてもう一度話し合います。

『トーチソング・トリロジー』という映画は見たことがありますか? 1988年の映画ですが、自分がゲイであることをなんとか母親に受け入れてもらおうとする息子と、ゲイを拒否する母親の壮烈な映画です。その議論の徹底した戦いはただ唸ります。

 話して話して、とにかく、薫ラバーさんが納得できるところまでいきましょう。

 母親の意見や態度に最後まで納得できなくても、「これだけ言ったから、まあいいか」となるかもしれません。全然、納得できないと思ったら、納得するまで話し続けましょう。

 僕には、それしか、薫ラバーさんが自分の恨みを相対化できる方法はないと思います。

 薫ラバーさんの怒りが、36年間も続いている理由は、ずっと中途半端に押し殺してきたからだと思います。ずっと気になっていたのに、ちゃんと向き合わなかった結果、心の片隅で怒りは強く頑固に育ったのです。母親と直接話さなければ、自分の記憶と想像力だけが「事件」を大きくするのです。

 薫ラバーさん。どうかこの機会に母親ととことん話してみて下さい。それが、怒りの感情と向き合う唯一の方法だと思います。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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