それでも、舞台芸術としてのスケートのカンパニーを創るという夢のため、カリーは競技者として勝利を目指した。弱点だったジャンプとコンパルソリーフィギュアを克服し、インスブルック五輪で金メダルを獲得。アマチュアの頂点に立ったカリーはプロに転向し、念願のカンパニーを創設する。世界最高峰のオペラハウスであるメトロポリタン歌劇場での公演を実現するなど、舞台芸術の分野でも頂点を極めた。

 ステレオタイプの「男らしくあれ」という要求にカリーがもし屈していたら、男子スケーターは今も華やかな存在ではなかったかもしれない。そしてスケートを観る私たちにも、未知の美しさや選手一人ひとりの個性を尊重する姿勢が求められる。スケーターの内面まで見えるのが、フィギュアスケートの魅力なのだから。(文・沢田聡子)

●プロフィール
沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」