インターネットなどにおいて自分で試せるものは前者のようなもの該当すると思いますが、実際にはたとえ高得点な結果であっても、自己記入式の結果のみで診断に至ることはありません。なぜなら、自己記入式のものでは、そもそも診断を確定するために十分な情報を得ることができないからです。

 評価尺度は、基本的に調べたいものに特徴的な部分に注目して作られています。実際には、それ以外の部分についてお話を聞いて評価することも必要になってきます。

 特に、発達障害では、ご家族など本人以外の人から貴重な情報が得られることもあります(本人以外の人が必ず同席しないと診断できないということではありません)。また、自己記入式の評価尺度では、回答するときの状態や本人の個性に受ける影響も大きく、必ずしも状態を正確に表せていない可能性も考えられます。

 よって、たとえ「この前さ、ネットで発達障害か調べるやつやってみたんだけど、9/10当てはまっていた。実際に病院でも使われているやつらしいから、これ病気で間違いないよね」ということになったとしても、自分で病気と判断してしまうのはおすすめしません。

 病気の特徴や診断基準を調べ自分で診断してしまうことは、不安から悩み、気分が落ち込んでしまうなど苦痛を伴う可能性があるだけでなく、必要以上に活動範囲を狭めてしまったり、本来は必要なかったかもしれない休職や離職などに至ってしまうなど大きな不利益につながる可能性があります。

 心配になったことを調べることは大切ですが、やはり正しい判断を行うには、訓練を含めた専門的な教育・経験と慎重な診察が必要だと思います。

 病気かもと悩んだら自分で決めつけず、望ましい対応法としてどのような選択肢があるのか考えるために、ぜひ一度、精神科で相談することを検討していただければと願っています。(文/大石賢吾)

【注1】アメリカ精神医学会が刊行した『DSM−5精神疾患の分類と診断の手引』から。疾患の分類や診断基準については、これ以外にも世界保健機関(WHO)が提案しているICDが有名です。ともに日本の精神医療で広く用いられていますが、必ずしも全てが一致しているわけではありません。

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大石賢吾

大石賢吾

大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo

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