しかし、なかには先ほど触れたようなチェックシートや目立つ特徴だけまとめたようなものもあり、事前の理解が不十分なことで、自分が該当すると思い込んでしまうケースも起こってしまっているように思います。

 実際に外来を担当していると、初回の診察で「私、ADHD(注意欠陥・多動性障害)なんですけど……」というようなお話をしてくださるケースも経験します。しかし、紹介状もないので「どこで診断されたんですか?」と聞くと、「いや、別に受診はしてないんですけど、ネットで調べたら当てはまっていたので」と。

 発達障害に限ったことではなく、実際の診断には、専門的な知識と経験に基づく慎重な評価が必要になります。精神科の病気の診断基準を目にしたことがある人はわかると思いますが、あいまいな表現もあり、読み手によっては当てはまるように感じてしまう項目もあるのではないでしょうか。

 例えば、ADHDには、注意力の障害を評価する項目で「課題や活動を順序立てることがしばしば困難である」や「しばしば日々の活動で忘れっぽい」という記載(注1)もあります。みなさん、読んでみてどうですか?

「私も当てはまってるんだけど……」

「いや、そんなんでADHDとか診断しちゃダメでしょ」

「『しばしば』ばかり」

 いろんな意見があると思います。しかし、実際には、もちろん上記のような項目だけで診断されているわけではなく、病気としてとらえるべき症状の程度や期間、場面の特徴などについて重要な前書きがされています。

 このような前書きもふまえて「病的ととらえるべきか否か」という判断をすることが、診断するうえでわれわれ精神科医の最も重要な仕事の一つだと理解しています。

 一方、設問を読んで自分で答えを選択する形式のチェックシートも注意が必要です。われわれも、患者さんの状態を客観的に評価するために“評価尺度”というものを用いますが、これには患者さんご自身で行ってもらう自己記入式のものと、臨床心理士など面接者に評価してもらうものがあります。

次のページ
休職や離職も…自己診断で「大きな不利益の可能性」