「算数、数学をずっとやってきて、小5からは『青チャート』(『チャート式基礎からの数学』)を始め、中3で数IIIまで終わらせました。一般的には数学が得意なのかもしれませんが、息子に特別なセンスがあるとは感じられなかった。このまま続けたところで全国のトップはとれないと思ったんです」

 算数を続けながら、タエさんはせっせと種まきをした。化学はどうかと思って、元素記号の本を見せたが、あまりに食いつきが悪くて断念した。鉱物などが載っている本を渡したときも、キリくんは一度も開かず、地学も断念した。

 転機が訪れたのは、中3の秋。タエさんは、知人から国際化学オリンピックの日本代表メンバーが東大推薦入試に合格した話を聞いた。調べていくうちに物理でも国際大会があることを知り、即行動。WEBサイト上にある国内大会「物理チャレンジ」の過去問をすべて印刷し、ファイリングした。その数116枚。キリくんに手渡してみると、興味を示し、早速やり始めた。そして、物理に夢中になった。素粒子の世界にすっかり魅了され、大学で研究したいという。タエさんがやったことといえば、キリくんを書店に連れて行き、物理の本を選ばせたくらいだ。

 その後の快進撃はすさまじかった。高1の夏、早くも「物理チャレンジ」の予選を通過。高2で再度挑戦した際には、厳しいレポート提出が数カ月間続く最終選考を経て、国際物理オリンピックの日本代表に。本番でも、見事銀メダルを獲得した。この功績が東大推薦入試合格へと結びついた。

 ところで、東大合格まで費用はどれくらいかかったのだろうか? キリくんは、地元・大阪の公立小学校を卒業後、私立の初芝富田林中学校・高等学校に特待生で入学した。小6で合格した英検1級は受験には考慮されなかったが、地道に取り組んできた算数や、洋書でたくさん読んできた理科の成績が有利に働いた。中学受験でかかった費用といえば、関西での受験に必須とされる五ツ木模試の受験料2回分とその対策の問題集、実質1~2万円程度だ。

 中学受験や大学受験で塾通いや通信教育は一切しなかった。中学時代は首席、高校時代もトップクラスの成績をキープして6年間の学費が免除された。大学受験にかかった費用は、センター試験対策の参考書、TOEICやTOEFLE iBTの受験料、大学受験料ぐらい。中学受験からのトータルで見ても、10万円はいかないだろう。驚きの数字だ。

 タエさんは言う。「どんな子にでも、その子に秘められた特別な能力があるはず。親はそれを信じて種まきをして、サポートするだけ。お金がなくてもできる方法はあると伝えたい」(取材・文/小林佳世)