「例えば、僕が渡米した時は選手専属広報などいなかった。それこそ選手自身の環境のみでなく、メディアなどの環境も手探り状態だったと思う。当時はメディアの中にもプロでないような振る舞いをする人もいた。自分自身の考えも正しく伝わらないこともあった。そういう中で自分を守るには、必要最低限の対応しかしない、という方法をとったりもした。本気で結果を出そうと思っていたので、煩わしいことをなくしたかった」

「例えば、他人と直接話すのが苦手、という選手もいる。だけどそういう自分の苦手なことを口に出して言ってくれる方が良いと思う。それだけで、1つはわかることがある。正直に話してくれれば、対応する方法を考えることができる。 今は自分自身で意見を自由に伝える方法、手段がある。それは他競技のアスリートもそう。そういう中で素直に発してくれていることを、我々が大事にすることも必要」

 練習中、ジョークを交えながら選手たちと談笑する姿をよく見かける。 一人で海を渡り周囲とのコミュニケーションには苦労しただろう。活躍するにしたがい増えるメディアとの関係も難しかったはずだ。言葉で言うのは簡単だが、当時の経験すべてがコーチとしての大家の礎にもなっている。

「選手一人一人、プレースタイルも性格も異なる。コーチは、それぞれの選手に応じた接し方をしないといけない。難しいことだとは思うけど、最善の接し方を見つけたい。そのために柔軟でいなければいけない」 ーー選手の為、コーチは全力を注ぐべき。

「コーチとして考えているのは、選手全員の実力を伸ばしてあげたい。伸び悩んでいる選手にきっかけを与え救ってあげたい。それに対して全力を注ぐことが求められている。でも現実問題、選手全員を救済することは難しい。だからこそ、その可能性を増やすためにやれることを全力でやらないといけない」

 長い野球人生で多くのコーチ、指導者とも出会ってきた。その中で芽生えた自身の哲学のようなものを語ってくれた。

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コーチとして抱く哲学とは