パーク・デービスは現在の巨大製薬メーカー「ファイザー」の前身だ。パーク・デービスの依頼でニューヨークに実験室を作り、分離したのがアドレナリン(副腎髄質ホルモン)だ。こちらも非常に偉大な医学上の大発見だ。

 ところで、高峰が試みた麹菌を使った発酵は別のところで役に立っている。ビールも麦芽(モルト)を使って作った蒸留酒だ。そして、麦芽を使わずに合成酵素で大麦エキスを糖化して作ったのが発泡酒だ。

 酒税の軽減で安いビールができたのである。ぼく自身は発泡酒を(少なくともその一部を)美味しいビールと思っている。製造工程を考えると、糖化の方法が違うだけなので、決して「インチキ」なお酒とは思わない。

 いずれにしても発泡酒は高峰譲吉の功績の延長線上にあるのだ。もっとも、酒税法が改定されたら発泡酒の値段上のメリットはなくなるそうなので、発泡酒の将来は暗澹たるものかもしれない。

 今後、ものすごく美味しい発泡酒が開発されない限り(ぼくはそういう可能性にも大いに期待しているけれど)。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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