枕を濡らしたついでにさらに経験談を書くと、「わーガラケーガラケー! 懐かしい! 貸して貸して」と言われて渡すと、画面を何度か指でシュッシュッとスライドし、「あ、そっか、動かないんだ」とされたことが、48回ほどある。48回、枕は濡れた。濡れそぼった。

 さらにみんなを驚愕させるのは、ガラケーでツイッターをやっていることだ。「できるんですね!? ガラケーでツイッター!」と百発百中で言われる。それは「いるんですね!? ネッシー!」とか、「落ちるんですね!? 驚きの白さ!」とほぼ同じテンションだ。何を書いてるのかよく分からんが、それくらいガラケーでツイッターをやっていることは、度肝を抜かれる。

 ちなみに以前、僕の呟きがバズった(←最近この言葉を知った)時、リプ欄に「『いいね』の数の多さに溺れるなよ佐藤二朗」という貴重な意見を頂戴したが、この場をお借りし、その方に申し上げたい。分からんのだ。俺のガラケー画面では「いいね」の数は分からんのだ。俺のガラケー画面には「いいね」の数は表示されんのだ。溺れたくても溺れられんのだ。バズったかバズってないか(←最近覚えたので多用したい)、俺のガラケー画面では分からんのだ。

 ガラケーユーザー、俺は絶滅しつつある、このガラケーユーザーを、「ガラケニスト」と呼んでいるが、いや呼んでないし、それどころか今初めて書いた訳だが、少し気に入ったのでこの名を使うが、この、ガラケニストで僕がいる理由は、実は特に、ない。ポリシーでもこだわりでもなく、「なんとなく」だ。行こう行こうと思ってたら、いつの間にか出遅れて、気づいたら周りに誰もいなくなっちゃった感じ。

 NHK総合の「スマホ見せてください!」という番組に出演した。町行く人々のスマホを見せてもらい、そこに蓄えられた動画や写真の思い出、自分なりのスマホの活用術、などを教えてもらうという番組。十人十色のスマホの楽しみ方、世界に繋がるスマホの可能性などが分かり、非常に貴重な経験ができた。

 そろそろ引き際であろうと思う。と、同時に、なんかもう、楽しくなっちゃってる自分もいる。皆の、驚愕や絶句や憐憫などの反応を見るのが面白くなってきちゃってる。てなことで、今もこのコラムを、ガラケーで書いている訳である。(文/佐藤二朗)

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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